空から雨が降ってくる。
地面にはポツポツと、黒い斑点模様ができ、
外はびしょ濡れで。
黒い雲が太陽を蔽い、真っ暗な世界に変わる。
その内、雨は血に変わり、己を傷みつける、様々な物が落ちてきては、自分の身体を容赦なく切りつける。
外はびしょ濡れで。
雨宿りの場所を探しても、そこには君がいない。
すぐに屋根は無くなり、また、切りつけられる。
安息の場所はなく、雨宿りが出来ない。
君が、いない。
晴れ渡った空から、光が差し込む。
今日は晴れ渡って、素晴らしい天気だ。
ロイは窓の前に立ち、外を見つめる。
待ち望んでいる少年が来そうな、そんな期待を胸に秘めながら。
すると、コンコン、と扉が叩かれる。
「ー入りたまえ」
開かれた扉から、入って来た小さい少年は、紙の束を持って、ロイのデスクへ一直線した。
「報告書、持ってきたぜ」
はい、と渡すと暫くロイのデスクの前に立ち尽くしている。
「突っ立ってないで、かけたまえ」
ソファに視線をやると、エドは気がついたように腰掛ける。
脚を組みながら天井を仰いでいると、パサ、と紙を置いた音がした。
「…もう行っていい?」
報告書をデスクの上に置いた途端、聞かれる。
少し面白くなかったが、それを隠して口元を上げた。
「まだ、読み終わっていないよ。因みに明日まで、読み終わる予定はない」
「…は?問題ないなら、行きたいんだけど」
相変わらず、素っ気無さすぎる態度。
これで恋人と、呼べるのだろうか。
「随分つれないね。久しぶりに会ったというのに」
何かもっと、言う事はないのかい?と、エドに詰め寄ると、エドは言葉を詰まらせる。
こうまでしてやっと、エドは本心を見せてくる。
やっと、自分の胸の中に納まってくれる。
と、思ったのだが。
プイっと顔を背けたまま、言葉を交わそうとしない。
「鋼の?」
いつもはこの辺で、折れてくれるのに。
「早く、読めってば。外にアル待たせてんだから」
何をそんなに、急いでるんだろうか。
そんなに此処に居たくないのか。
まだ何一つとして、再会の喜びを分かち合っていない。
それなのに。
「今日はまた随分、急いで。どうしたんだね?」
「どうもしない。それより早くー」
グっと手を掴まれる。
痛いほどの力は、エドでも簡単には振りほどけなかった。
目を見開いてロイを見れば、焔の錬金術師とは思えないほど、冷たい瞳をしていた。
外は
外はびしょ濡れで。
その内、雨は血に変わり、己を傷みつける、様々な物が落ちてきては、自分の身体を容赦なく切りつける。
束の間の安息すら、もう、許されないのだろうか。
君はすぐに、いなくなるー。
「うわ!ほら!降って来た!」
ロイを通り越して、エドの瞳が写すものは、机の後ろの大きな窓だった。
先程まで晴れ渡っていた空が、今ではもう、真っ黒い雲が広がり、ポツポツと水を落としていた。
エドが急いでいた理由は、これだったらしい。
「降りだす前に、司令部出たかったんだよ」
「…すまない」
力の無い声で呟いたロイに、エドは首を傾げる。
掴まれている腕の力も、弱々しく感じた。
…何かマズイ事でも、言っただろうか。
「…?まぁいいや。大佐の家、行ってるぜ」
「…何?」
「…あー…今日、マズイ?用事あった?」
頭を掻きながら、遠慮がちにロイを見る。
ロイは目を丸くして、ただエドを見つめている。
エドの「行く」とは、自分の家の事…。
何も言葉を出さないロイに、エドは都合が悪いのかと誤解する。
「…仕事、遅くなる?」
「…すぐに終わる」
ロイは目を細くする。
ザーザーと、雨は本格的に振り出した頃には、エドは既に司令部を出ていた。
仕事を片付け、さぁ帰ろうというその時に、ホークアイが扉から入ってきた。
また書類を持ってきたのかと、ギクっとする。
「大佐、上がりですか?」
「ああ。…凄い雨だな」
窓から外を覗けば、地面を打つ音と共に強い水の線が見える。
「少し落ち着くまで、此処で待ったらいかがですか?」
雨宿り。
だが、すぐに家で待つエドの姿が頭を過ぎった。
口元を上げると、ゆっくり首を横に振る。
「いや、帰るよ」
「そうですか。お気をつけて。今日は雨ですから」
「・・・・・・最後の言葉は心の中で言いたまえ、中尉」
嫌味なのか忠告なのか分からない言葉をサラリと言ってのけるホークアイを横目で見ながら、コートを羽織る。
司令部を出ると、やはり凄い雨風が吹いている。
空から雨が降ってくる。
外はびしょ濡れで。
様々なものに、切りつけられても走れば、そこには
「ただいま」
雨を凌ぐ屋根が。
|