a place with love もう随分寒くなって、空気が変わってきても、二人は何も気にする事なく、いつもの様にしていた。 ツナの家の付近の河原で、鞄を下ろしての寄り道。秋晴れが続く最近では、外でのんびりするのが気持ちよい。 夕焼けは程よい具合に辺りを照らしているし、下校途中の学生もポツポツと通る。 河を挟んで向こう側の河原では、ふざけて数人の生徒が競い、走りあっていた。 今にも青春ドラマのロケで使われそうな河原だ、と常にツナは思っていた。 「えーと、次が5?」 「あー・・・惜しいっすね、9です」 あんまり惜しくないのではないだろうか、と思いつつも、間違った箇所に×を付けて行く。 横に9と書くと、獄寺の用紙を覗き見る。 数学の授業でやったプリントは、そのまま宿題になる事が多かった。 勿論、時間内にできる者にとっては楽なものだったが、それができない者にとっては、毎回毎回宿題ばかりで、あまり良いものではない。 明日は数学がある。そして明日は自分の出席番号の日付だ。当たる確率が高かった。 前回のプリントを時間内にやり終えなかったツナは、家に着く前に何とか終わらせようと必死だ。 家に着いてプリントが終わっていないとなると、リボーンのスパルタな教え方でもってやらされるはずだ。 その前に、獄寺に教えてもらった方が良い。というのがツナの考え方だった。 「ごめんね、いつもオレに合わせてもらっちゃって」 獄寺にはいつもいつも、時間を割いてもらっている、とツナは感じている。 それでも文句も何も言わずにいる獄寺に、甘えてしまっているのだ。 それを感じて、時々、罪悪感が胸を締め付けた。 「え、全然。別に合わせてないっスよ」 自分がしたいからするのだ、と、当の獄寺はサラリと言うが、ツナはやはり気になる。 獄寺は優しい。本当に、優しいのだ。 確かに見目は相当恐いし、俗に不良と呼ばれるような外見をしていると思う。 だが、本質は違う。それをツナは分かっていた。 まだ本当に打ち解けたように喋れないが、分かっていた。 だから、気を遣ってくれているんじゃないか、と、やはり少し気にしてしまう。 「・・・うん。でも、」 ありがと。 はにかんだ様に笑うツナを目にして、獄寺はぼうっと見惚れていたかと思うと、気まずそうに目を逸らした。 ツナはお構いなしに視線を送る。 山本も獄寺も、大切な、大切な仲間だ。リボーンと出会って、彼等と出会って、めちゃくちゃな事ばかり起きている。 予想もしていなかった事が次々と起こって、困った事は山ほど。だけど不思議と楽しくて。 今までの自分の生活は一変した。 これから、中学を卒業して、高校に行って、大学に行って、 (それからどうすんのかなー…。マフィアの事って良くわかんないや) そもそも、そこまで進学できるのかすら分からない。 だがきっと、今までのように、有り得ないような事ばかり起きて。速く速く、時が流れていくのだろう。 皆と一緒に、二人と一緒に、流れていきたいと思う。 「…一緒にいたいなぁ」 つい漏れてしまったツナの言葉に、獄寺の視線がまた戻った。 むぐ、と口元を抑えるが、既に発してしまった言葉は元に戻らない。 仕方なくへらりと笑うと、頬を染めながら、睫毛を伏せた。 「や、その…獄寺君と」 「………へ」 獄寺の顔が、ぼっと赤くなった。 それはいつも、自分が思っていた事だった。まさか、己に対して、ツナが投げかけてくれるとは思ってもみなかった。 ずっと側に置いてほしい。右腕として、ずっと、守らせて欲しい。 そうして、できれば。もし、叶うなら。多くを望んでも良いのなら。 それに応えてくれると言うのなら。 マフィアという組織の繋がりが関係なくとも、無くてはならない存在に。 その肌に触れても、微笑んで貰えるような関係に。心を占める、間柄に。 「山本、とも」 「…………」 簡単に期待を打ち砕いてくれる。 それでも自分の名が出ただけ、良いものとしなければ。言い聞かせるが、想い人から出た他の名前がくらわす ダメージは相当大きい。 すうっと、肌に秋の風が触れた。金木犀の良い香りと、冷たくも心地よい空気が周りを包む。 「・・・獄寺、君は」 一緒にいたいと、想っていてくれるのだろうか。ダメツナと呼ばれるほど、取り得がない自分だが。 それでも、これから先、ずっと側に居てくれると、言うのだろうか。 言うはずでなかった言葉を漏らしてしまった上に、そんな事は聞けない。 そう思って口を噤んでいると、獄寺の方が言葉を発した。 「・・・初めてなんです。守りたいとか、側に置かせてもらいたいとか、思ったのは」 「う、ん?」 学校からチャイムが、鳴り響く。 ワーっと、小学生が駆け抜けた。ドタドタと足音が真後ろを通り、楽しそうにはしゃぐ声が、一斉に通り過ぎた。 驚くほど静まり返ると、獄寺は再び口を開く。 「10代目が沢田さんでなかったら、無かった」 「そー、そうかな」 「そうっスよ」 間髪入れずに答える獄寺に、ツナはどうリアクションしていいのか分からなかった。 普段とは違う、この空気がいけない。 緊張を誘うような、いつもの友情のそれでない、この空気が。 「貴方だけです」 これから先も、ずっと。 もう一度、風が吹いた。甘い香りが鼻にすうっと入ってくるが、緊張は解けない。 ツナは口が縫い付けられたように、唇を引っ込めていた。 これは、まるで。 (て、照れるなー…) 告白のような獄寺の言葉。妙な雰囲気に参ってしまう。 だが、素直に嬉しかった。 獄寺が、これから先も、自分と共に居たいと思っている事。 10代目がツナだから、そう思っている、と言ってくれた事。 本当に、嬉しくて。自然と微笑んでいた。 「嬉しいよ、獄寺君がそう思ってくれてて」 「・・・っ!10代・・・」 「何してんの?お前ら」 聞きなれた声に、ヒョイと顔を上げると、夕焼け空をバッグにした山本が居た。 いつものように豪快な笑みを見せると、ツナの肩を抱き寄せ、プリントを見る。 ツナも素直に見せ、仲睦まじく寄り添っているのだから堪らない。こっちは良い所で邪魔されたというのに。 「・・・ってめーマジふざけんなよ・・・!」 離れろと言わんばかりにツナを奪い取ると、山本は面白そうに笑った。 もうすぐ星が見えそうだ。プリントも大体は出来た事だし、そろそろ帰ろうと、河原の坂を登ると、 後ろから「10代目」と呼ぶ声が聞こえた。 ツナは小さく返事をすると、振り返る。 何も言わずに微笑むと、ツナの手を握り締めた。ゴツリとした指輪が当たる。 嬉しそうに笑う獄寺に、ツナも少し力を入れ返すと、満面の笑みを向けられた。 「結構寒いなー。早く帰ろうぜ」 ツナの空いた片方の手を山本が握ると、瞬間、獄寺は烈火の如く怒り始めた。 「な・・・っ!触ってんな!てめーは一人で帰れ!」 「おいおい、こえーなぁ、獄寺は。なあ、ツナ。酷いと思わねぇ?」 ははははと笑いながらも、しっかりツナに訴えるのを忘れない。 困ったように笑うツナを真ん中に、3人は歩いていく。少し肌寒いような、それでも温かいような。 「日本に、帰ってきてよかった」 此処に居れて。 幸せです、最高に。 そう言う獄寺の表情は、ツナ以外には向けない、満面の笑み。瞬間、無意識に「オレも」と返していた。 ポロリと出た言葉。 想像もつかなかった。幸せ、だなんて。言ってもらえるような友達が出来るとは。 また、自分でも言えるような人間に出会えるとは。 「オレも幸せ、だぜ?ツナ」 もう片方の手を握る山本も、すかさず言葉をかけた。会えて、友達になれて本当に良かった。 また、さっきと同じように返事が出た。 混ざり合った、柔らか色の空の下。 手を繋いで、3人、背い高のっぽの影と共に。 1本道を、小さな手を握りながら、歩く。 ずうっと。 |
ツナを守ってツナを巡って日々戦ってる二人だけども、結局のところ、ツナと出会って幸せだというお話が書きたかった。
BGMはマッキーであります。
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