もくもくとパスタを頬張るツナの前には、何故か黒川花が座っていた。
いつものメンバーではなく、彼女と二人だけの食事だ。
背の高い彼女がやたら高いヒールを履き、シャキっとしたパンツスタイルでいると、まるでモデルのようだった。
しかし当の本人は何も気取ることはなく、あーんとパスタを頬張っていた。





特に仲が悪いわけではないが、二人で食事に行くということはあまりない。
大概、他の誰かも一緒だった。だからツナは少し緊張していた。花の方は、そんな様子は一欠けらも見せなかったが。

「あのさー、沢田、合コンしない」
「合コン…?」
「ちょっとまずい。このままだと私、2年を突破する」
「なにが」
「彼氏いない歴」

そんな風には見えないが、と、ツナは思った。
最初はそんなのも気楽だったけど、流石に2年ともなるとちょっとねーと、花は語ると、紅茶を一口、コクリと喉を鳴らした。
しかし、何故自分に誘いをかけるのか。それが不思議で、ツナは軽く首を傾げ、花に疑問をぶつけようとした。
だが、花はもうツナが言うことが分かっているらしく、先に口を開く。

「何だかしらないけど、あんたの周りって美形多いんだよねー、本当。しかも沢田に忠実な奴ばっかでしょ」
「忠実って…」
「だからちょっと声掛けてよ」

確かに、美形が多い。ツナはその時初めて気がついた。
しかし、どうもツナはこういうのが苦手だった。見知らぬ女性と初めて会って、楽しく喋れる程、自分は器用ではなかった。
彼女が欲しくないという訳ではないが、特別に、彼女が欲しいという訳でもなかった。
気乗りしないツナを見て、花は溜め息を吐くと、キっとツナを鋭い眼光で捕らえた。
花の目力は強い。それは、漆黒のマスカラのせいでも、長い睫毛のせいでもなく、
ただただ、彼女の意思の強さからきているものであった。
びくりと肩を上げたツナの反応に、花は愛おしげに、ふっと目元を柔らかくすると、薄く微笑む。

「…そんなに怯えない」
「いや、そういうわけじゃ…」
「このギリギリな黒川花をちょっとは分かってくんないの」

またしても睨まれ、暫くツナは、蛇に睨まれた蛙のようであった。
硬直状態が続き、ツナがうっかり頷きそうになった時、花は漸く諦めたのかふう、とまた溜め息を吐いた。

「沢田、弟いんでしょ。見せろ」
「はあ?」






ブラコン2







ツナの義理の弟であるコロネロは、まだ高校生だ。花は年下趣味だったのかとツナが首を傾げていたが、
そうではなく、「将来有望株」を見ておきたい、ということだったらしい。
さっそく今日の帰り、コロネロがバイトをしているカフェに出向こうと半ば強制的に言われ、ツナは頷くしかなかった。
まだ、一度もバイト中の弟の姿を見たことがなかったものだから、見てみたいというのもあった。

(コロネロは嫌がりそうだけど)

けれど、頑張っている弟の姿。一度は見てみたかった。
唐突な訪問に、嫌な顔を見せるだろうが、仕方ない。
どんな店員をやっているのだろう、笑顔を見せているのだろうかーなどと思っていると、心がほっこりと
温かくなってくる。ふわりと微笑みながら、ツナはキーボードをカタカタと押した。



「ああ、何、ここなのか?ツナの弟が働いてるとこって」

面白そうー
そういった理由で、ディーノも何故か参加することになった。ツナの先輩に当たるディーノは、頼りになる先輩だ。
仕事の相談で飲みに付き合ってもらっては、ツナが先に潰れて起こされるという事態が何度もあった。
『assolare』と書かれた看板を見て、ディーノは何やら此処を知っているような空気を醸し出した。

「ディーノさん、知ってるんですか?」
「ん。カフェ・アッソラーレ。オレも学生の頃ここでバイトしてた」
「そ、そうなんですか!?」

丸い瞳を更に丸くさせ、ツナが驚いてみせると、ディーノはプ、と笑いながら、ツナの柔らかな頭を掻き回した。
ツナは軽く目を瞑り、されるがままになっている。
やがて店員に案内され、カフェの中へと入っていく。
薄暗い照明の店内は洒落ていて、ポサノヴァ風の音楽が、静かに空気に溶け込んでいた。
女性の客がやけに多い。それがやけに目立ってツナはポツリと言葉を漏らした。

「…女の人、多いなー」
「そりゃ、雑誌にも良く載ってるしね。へえ…あんたの弟、ここで働いてるんだ。期待できるわね。店員、レベル高い」

で、どこ。
と、早速花は、店員のチェックを始める。ツナもキョロキョロと、弟の姿を探す。
金色の髪の毛は、きっと凄く目立つだろうから、すぐに見つけられるだろう。
首をぐるりと回して見たが、見当たらない。もしかしたら、今日は出ない日なのだろうかー…と考えたが、
コロネロはほぼ、いつもバイトに行っている。今日だってきっと、居るはずだ。
ツナはもう一度、店内を見回した。


























「ツナ、来てるぞ。…、ああ、もう知ってるか、お前は。気づかない訳がないな」
「知、る、か」

厨房でガシャガシャと皿を洗うコロネロに、リボーンは静かに声を掛ける。
同じ学校で、同じバイト先で、家も近い。どれだけ仲がいいんだという話になるが、全くそういう訳ではない。
全て、「同じところにしよう」と言い合ってなった訳ではないのだ。
コロネロもリボーンも、互いが似ていることは分かっていた。趣味が似ているのだ。
頭のレベルも、同じくらい。学校もバイト場も、全て自分だけで決めたはずが、被りに被っていただけの話であった。
リボーンが溜め息を吐いてフロアに出ようとした時、少しウェーブのかかった漆黒の髪の男が楽しげに厨房へと入ってきた。

すらりとした腕を曲げて、ポケットの中から3枚、名刺を取り出した。
内、2枚をコロネロとリボーンに差し出す。

「2番テーブルのお嬢さんから」

皿を弄っているコロネロは、「そこらへん置いとけ」と気のない返事をすると、ランボはやれやれと、
コロネロのポケットに名刺を忍ばせた。
リボーンも特に興味はないのか、名刺はそのままポケットに落ち、フロアへと去っていった。
コロネロもリボーンも、何かに特別興味を示すことはないのではないだろうかと、ランボは思っていた。
二人、昔からの付き合いらしいが、ランボは高校からの付き合いだ。
この二人の口から、執着を匂わせる言葉を聞いたことがない。
ただ一人、コロネロの兄を除いては。

そう、兄に対してのみ、コロネロは何故だか違うらしい。
それは、コロネロとリボーンの会話を聞いていれば分かった。
一度、お目にかかりたい。ランボはそう思っていた。

「−…名刺くらい、いいだろ。…コロネロ、この間の子、まだ続いてる?」
「うるさい。付き合ってる」
「…へえ」

コロネロが以前告白された女の子ー。
彼は確かに言っていた。以前交際していた女の子に、「ちゃんと愛してくれていない」と言われて別れを切り出されたのに、
いざコロネロが「わかった」と言うとわんわんと泣き出し、コロネロは呆気に取られたのだ。
もう当分、恋はいい、というようなことを言っていたのに、今度は違うらしい。
最近告白を受けた女の子。彼女には、告白された瞬間ー恋に落ちたという。
一目ぼれだったらしい。
コロネロが言うのだから、よほど可愛かったのだろう。自分は見たことはないが。

「…本気なんだ」

ポツン、と零したコロネロの言葉に、ランボは頷いた。本当に、珍しい。
彼が、「兄」以外にこんな、執着を見せる言葉を吐くのは。
足音も立てずに、リボーンがフロアから戻ってくる。

「ツナが探してたぞ」
「−………」
「金髪の奴に構われてた」
「………っ」

ばっとバンダナを取り、シンクに背を向けると、コロネロはすぐにフロアへ向かう。
コロネロの背に向かって「ブラコン」と呟いたリボーンの呟きは、彼には聞こえなかったようだった。










続きます。

コロスケほんとツナのことスキネ!



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