「リボーン、お願い!ランボの欲しい物、聞いてきて」

ツナがパン!と両手を合わせて、リボーンに頼み込むと、
リボーンは口を付けていたディーカップをそのまま、宙に留まらせてしまった。
もうすぐランボの、誕生日なのだ。







ョコレート・    

     
イン




朝の6時30分。ランボはまだ、ツナの部屋で寝息を立てているはずである。
早めの朝食を二人で取っている最中、ツナは頼み込んできたのだ。
ランボの誕生日プレゼントを買いたいが、自分で希望を聞いたらバレバレなのだから。
だから、聞いてくれーと。

「知るか。メイドにでも頼め」
「メイドさんだと、駄目…。皆、目的忘れてランボと遊んじゃうから」
「適当に葡萄かチョコレートでもやっとけ。ー今日の会議、忘れてないな?」
「うん。だからその帰りに街で買おうと思ってたんだ。−…な、リボーン」

さっきより控えめに、ツナが軽く手を合わすと、リボーンは眉間に皺を寄せて、
不愉快そうに、席を立った。







重たそうな扉をいとも簡単に開け、リボーンはツナの部屋へズカズカと入り込んだ。
すやすや、ツナのベッドに埋もれて眠るランボを発見すると、胸元からピストルを取り出した。
なんでもないことのように、早速、天井に向かって一発お見舞いする。
凄まじい音に、ランボは薄っすらと目を開いたが、「10代目」と甘えたような声で言ったきり、起き上がる気配はない。
腕をもぞもぞとさせている様子を見ると、ツナを捜しているようだった。
どうもランボは、寝起きはーというか、寝起き「も」、甘え癖がある。
面倒な事をとっととすませたいリボーンは、イライラとしながら、早足でランボの許へ向かう。
ベッドの横に立つと、ランボの額に銃口を突きつけた。

「起きろ」

ゴっという音と共に、漸くランボが目覚めた。

「な…リボーン…?」
「3つ数える内に、今欲しい物を言え」
「はあ?」
「いくぞ。ー…3、」
「ちょ、待て…、」


3秒くれてやるから、絶対それ以上は時間を掛けるな、手を煩わせるな、と言わんばかりの
リボーンの態度に、ランボは混乱気味だ。ただでさえ、寝ぼけた頭はスッキリと動いてくれないのに。
目の前に突きつけられた銃口が、段々近づいてきているような気がする。

「2」
「ほ、欲しいもの?…ボンゴレ10代目ー…」

リボーンの顔が、明らかに歪んだ。
このアホ牛は、ツナが欲しい −などと、馬鹿で、不愉快極まりないことを口にしやがったのだ。
物凄く不快な顔つきをし、目の前のランボを冷ややかで、尚且つ恐ろしいものを込めた瞳で見た。

「1」
「ちょっと待て。欲しいものは今言ったとおり…」
「死ぬか?」

ゼロ、と声を出さずに唇を動かすと、ランボの額に銃口を押し付けた。
その時、ベッドの横の小さなテーブルの目覚ましが、けたたましく鳴り響いた。
リボーンは銃を仕舞うと、自分の腕時計にも目をやった。

「−…時間か」

それだけ言うと、ランボを振り返りもせずに、部屋を出て行った。
ランボは暫く、呆然と扉を見つめていた。
何の事だったのか、良く分からない。
煩くなる目覚ましを止めると、もう7時30分を過ぎたのに気がついた。
ツナは何処にいるのだろうと、部屋を見回すが、気配はまるでなく、
下に降りてみても、見当たらなかった。
仕方なく、花瓶に花を飾ろうと、白薔薇の花を沢山に抱えたメイドを呼び寄せる。

「10代目、何処に行ったか知らない?」
「さ、さあー…存じませんけど」
「嘘…知ってるはず」

口止めされているらしいメイドに詰め寄り、壁際に追い込むと、
メイドは困ったように、視線を落ち着かせなくさせた。
しかし、すぐそんな事もなくなった。
壁に手をつき、メイドの間近に迫るランボの甘い微笑みが、彼女を魅了したからだ。
うっとりと瞳の色を甘くさせると、もう視線を逸らすことはできなくなっていた。

「−…困ってるんだ」
「あー、あの…でも、私ー…」
「教えて?」

顎を持ち上げ、更に瞳を近くさせる。
お願い −と、彼が口にした頃には、もう完全に、メイドは落ちていた。















今日は同盟の会議があるらしく、ツナはそれで、朝早くから出かけていたらしい。
”帰りに買い物をしてくる、と仰ってましたわ。お帰りになるのは、夕方ー5時くらいかと”との、メイドの言葉。
部屋で待っているのも退屈だ。
ランボは街に出て、ノロリノロリと歩いていた。

「買い物」には、勿論リボーンの姿もあるのだろうーと思うと、ランボはどうしようもない程、気持ちを沈ませた。
彼等の信頼関係はー絆は、強すぎる。
ションボリと肩を落としていると、急に、優雅な音楽が、街中に流れ出した。
そういえば今日は、どうりで人通りが多いと思った。
祭りだー。
人々は男女ペアになってくるくると踊り出した。
色とりどりのドレスに身を纏った女性と、堅苦しいタキシード姿の男性とが踊る様を、
ランボはベンチに腰を掛け、ぼんやりと見ていた。
すると、一人の女性が目に入った。髪は一つに束ね、上でアップにしている。
煌びやかな衣装ではないが、淡い色合いの、デコルテを美しく見せているドレスの女性だ。
踊りたい空気を出してはいるがーパートナーがいないらしい。
下を俯いて、踊っている人々を、羨ましげに見ていた。
ランボと目が合い、優しく微笑むと、女性も照れたように微笑んだ。
ベンチにゆっくりと寄ってきた女性に、軽く会釈され、ランボは立ち上がった。












「リボーン。…本当に、その…、ランボ、これが欲しいって?」
「丁度いいじゃねーか。あの馬鹿牛は目覚めが悪すぎる」
「う、うんー…でもなあ…」

店を出たツナは、リボンの掛かった小さな箱が入った袋を持っていた。
ーツナが買ったものは、目覚まし時計。
リボーンが調査してきてくれた結果、ランボが欲しいのはこれ、らしい。
頭を傾げてしまう一品だ。ランボの欲しい物とは、思えないが…。

「まあ、いいや。おまけにボンボンも買ったしー…」

目の前で繰り広げられる、優雅なダンスを楽しげに見ていたツナが、急に目を見開いた。
くるり、くるり、と、皆が楽しそうにダンスを楽しむ中に、女性と踊る、ランボを発見したからだ。

「な、何でランボが…」

見事なリードで女性とダンス踊るランボは、やはりダンスもうまかったんだな…、と感心してしまうほどだった。
女性は楽しそうに、ステップを踏んでいる。
きっと、蕩かすよな笑みで女性を夢見心地にさせ、ふっと、時折歌うように囁かれる甘い声でもって、あの女性を
虜にさせているのだろう。

「−…何でランボって、オレの所に来るんだろう。
他に可愛がってくれそうな人、沢山いるはずなのにー…」

女性と踊る姿を見て、嫉妬をしている訳ではない。
けれど、不思議ではあった。
極上の餌を与えてくれる人間は、彼の周りに沢山いるだろう。
ふらりふらりと、消えたり現れたりする、それなのに。
それなのにー……彼が帰る場所は、ツナの所なのだ。
嫉妬ではない。そうではない。けれど、彼に極上の餌を与えてまで側に居て欲しいと願う人間が、少なくはないということ。
いつか、自分から離れていくのではないだろうかと、それを思ってしまうと、悲しかった。

「口、開けてろ」
「え?」

ポカンと唇を開けたツナに、リボーンが黒く、丸い物体を投げ込んだ。
ムグ、とツナは口を閉じ、それを割ると、中からトロリとしたリキュールが、冷たく流れ込んできた。

「ボンボン。美味しい」

買って正解だとツナが呟くと、リボーンが口許を上げ、手を差し出してきた。

「オレ達も踊るか?」
「…じょ、冗談ー…」

女にするように、跪いて手にキスを贈ってやろうかー、と、からかうように言われ、ツナは首を盛大に横に振った。
断ったはずなのに、リボーンの手は何か魔力でもあるのだろうか。
の方に引き寄せられるように、ツナが手を触れようとした瞬間だった。

「10代目!」
「え?あ、ー…え?ランボ!?なんでー…」

踊っていたはずのランボが、いつの間にかツナの側に来ていた。
どうやら、踊っている最中に、ツナを見つけて駆け出してきたようだった。
瞳を潤め、ツナを抱きしめようとしたが、ツナはそれを許さなかった。
パートナーの女性が、首を傾げて、見ていたからだ。

「ラ、ランボ!パートナーの方が居るのに、失礼だろ!」
「10…」
「駄目!」

踊ってくるようにランボに言いつけると、ランボはションボリした様子で、また踊り始めた。

「−…アホ牛の躾も大変だな」
「う…、でも、ダンスは凄く上手いよ」
「−…まあな」

リボーンの目から見ても、そう見えるということは、相当なものだ。
ツナは嬉しくなった。

「はい。ここの、美味しかった」

さっき買ったボンボンの1袋を開け、リボーンの口の中に入れる。
リボーンは特に何も言わず、モグモグと口を動かしている。
彼が文句を言わないのだから、そこそこのものなのだろう。






一方、ランボは気が気でなかった。
踊っている最中も、気になってツナの方に視線を送っていると、何やら二人とも楽しげに話している。
そして何ということか。
リボーンの口に、ツナはチョコレートを投げ込んだ。

(な……!)

思考は完全にそっちのけだが、身体が覚えこんでいる為、ステップをとちることはないが、
女性には大変失礼なことだ。
何しろ、視線が一時も合わないのだから。
ランボは究極のフェミニストであるが、ツナが絡めば話は別だ。
直ぐに駆けつけたい気持ちを抑え、何とかダンスを踊っていたが、
彼の忍耐を試すかのように、ツナがもう一度、リボーンにチョコレートを差し出した。
ああ、そして、また「あーん」という形ー…
もう我慢ならない。
ランボは駆け出してしまった。

「10代目…っ!」
「な、ランボ!また…っ」

ツナが踊りに戻れと言うより先に、ランボが有りっ丈の力で、ツナを抱きしめた。

「こ、こら…っ」
「だって10代目ー…っ」

グスリとしたランボに、ツナも中々、強い事が言えない。
そして言っても、逆効果な気がする。
リボーンは呆れたようにランボを見つめ、ツナは仕方なく、背中を撫でてやった。
パートナーの女性は、ランボの様子をクスクスと上品に笑っていた。
しかし、次の瞬間には少し残念そうに、睫毛を伏せた。
踊る相手が居なくなって、困っているのだ。
どうしたものかと、ツナは考えた。
自分はこの通り、ランボに捕まって踊れない。
後、残るのはー…
リボーンをチラリと見上げると、視線がぶつかった。
ツナはランボの背中から片手を抜き取り、リボーンに向けると、声を出さずに唇を動かした。

『悪いけど おねがい』

ツナが言っている意味を理解したリボーンは、思い切り、眉間に皺を寄せた。

「ああ?ー…お前な…」

リボーンが言おうとしている言葉を遮り、ツナは唇を動かす。
「たのむよ」と。
ヒクリと、決して喜びでなく、無理矢理に口許を上げると、諦めたのか、ヤレヤレと息を吐いた。
女性の前に立ち、真っ直ぐと女性を見る。
射抜かれるようなリボーンの視線に頬を染めた女性の手を取り、その場に跪く。

「お相手を」

軽く手の甲にキスを落とすと、女性は更に、頬を染めた。

「よ、喜んでー…」


ランボの変わりに踊り始めたリボーンを、ツナはぼうっと見ていた。
ランボも素晴らしくダンスが上手いが、リボーンも勿論、だ。
何をやらせても一級品である。

「ー…絵になるんだよな…」

女性の頬を染める。魅了する。
リボーンのあれは、天性のものだ。小さい頃から、その才能に長けている。
ーと言っても、全ての才能に恵まれていると、ツナは思っているのだが。
リボーンの方ばかり見ているツナに、ランボは拗ねたように口を開いた。

「−…何でリボーンの方ばかり、見てるんですか?」
「や、上手いなあと思って」
「オレよりも?」
「ランボも上手かったよ」

ツナは微笑んだが、ランボはまだまだ、納得いかないらしく、顔を俯かせてしまった。
こういうところが、可愛い。現れて、消えて。いつも振り回されているが、自分も少しは、ランボを振り回せるのだろうかー
と、ツナは思っていた。ツナは全く分かっていなかった。
目の前の男が、どれほどツナによって振り回せれているのか。

「−…10代目が飼ってるのはオレなのに…」

なのに、リボーンばかり。と、子供のように、泣きそうな声で小さく呟いた。

「か、飼うってー…。でもオレは、リボーンに飼われてるからなあ…」

何でもない事のようにツナが発言すると、ランボは目を見開いた。
ガーンという効果音が、確実についている。
更にツナはまだ、リボーンと女性のダンスに目がいっている。こんなに大勢の、色とりどりのドレスの中から、
あの黒一色に染まった彼を見つけ出すのは簡単なのではないかと言うと、そういうわけではない。
大勢の人がコマのように回っていて、しかも紳士達は黒属性の服を着ているのだから、中々困難なものだ。
けれどツナは、リボーンを確実に見つけ出している。
ちょっと目を離しても、すぐに見つけてしまう。面白くない!と、ランボは心の中で叫んだ。

「飼われている、って、なんですかそれ…」
「え?なにがー、だって家庭教師だろ?今も昔も、色々教えてもらってるよ」

ランボが声を荒げたのに驚いて、ツナは肩を上げた。
「家庭教師」−そういう意味と知ると、やっと落ち着いたのか、ランボは口を閉じた。
しかし、まだ納得していない様子だった。
ブスリとした顔が可笑しくて、ツナはこっそり、笑ってしまった。

「ー…オレの事、飼えるのは10代目一人だけですよ」

ランボはツナの手を取って、ちゅっと音がするように、愛撫する。
リボーンが女性にしたような、軽いものではなく、熱く長いキスに、ツナは顔を赤らめてしまった。
本当に、こういう所だけは大人になって、他は子供のまんまだー。
いつも思うことだが、また改めてー心底、そう思ってしまった。
ボンボンの袋に手を突っむ。
もっと高級のチョコレートでも、何でも望みのまま。
そんな飼い主も、彼の周りには沢山いるんじゃないかと思うがー
ツナは、ランボの口にそれを一つ、押し付けると、ランボはすぐに、パクついた。

「ちょっと早いけど、誕生日プレゼント買ってきたんだ」

ランボは自分の誕生日を忘れていたらしく、思い出したように、短く「あ」と口を開けた。

その日、リボーンの眉間の皺が取れる事はなかった。
そしてプレゼントである目覚まし時計の効力は全く無く、相変わらずランボの目覚めは悪い。
寝起きの甘え癖も、健在だ。
今日も朝から、リボーンの銃声が聞こえる。









何だか長くなってしまいました><お お疲れさまです
ランボは非常に甘えんぼです。ツナが他の子を甘やかしていると凄い嫌がります。
だけどツナが他の人に甘やかされているのも嫌がります。
甘やかすのも甘やかされるのも、自分ひとりがいい!という感じです。ダダっ子のようだ!

このネタでもう一本いけます(爆)



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