暑苦しくて堪らない。
情事の後。
いつもロイは、エドを胸の中に閉じ込めたがる。
まるで、まるで抱き枕にでもなった気分だ。
<俺は抱き枕じゃねーっつーの・・・>
こんなベタベタとした関係は堪らない。
何とか抜け出そうと、もがいてみるが、無理だった。
抱きしめる力が強すぎる。
この腕がいけないと思い、ロイの腕を開かせようと頑張ってみるが、それも無理だった。
頭にきて、ロイをキっと睨み上げた。
「大佐!いい加減離せよ!」
大声で怒鳴ると、やっとロイは目を覚ました。
しかし、ぼんやりと目を開けると、更に強い力でエドを抱きしめ始めた。
寝ぼけているのだろうか。
ぐっと力を入れ、全身全力を振り絞ると、やっとロイの腕から逃れられた。
ゼエゼエと息を切らしながら、ベッドを抜け出す。
手早く服を着ると、不意に扉の方が気になった。
<鍵、掛かってるよな…?>
夜勤で人が少ないとはいえ、気になる。
しかし、扉の方に近づこうとした瞬間。
むくりと、ロイが起き上がった。
「鋼の…?」
「やっと起きたのかよ。もう俺、帰…」
る、と言おうとした所で、ロイに腕を引っ張られる。
体制を崩したエドは、そのままベッドへ倒れこんだ。
「ちょ…っ」
また、ロイの腕の中に逆戻りだ。
しかしロイを見上げると、また眠り始めていた。
その安心しきった寝顔を見て、一息吐いた。
<もう少しくらい、いいか…>
そう思った時だった。
ガチャリ。
「大佐、いますか?」
仮眠室の中に入ってきたのは、ホークアイ中尉だった。
・・・ああやはり、確かめておくべきだった。
鍵は、掛かっていなかった。
ロイの抱き枕状態にされているエドを、ホークアイはじーっと見つめているだけで、何も喋ろうとしない。
気まずい空気が、室内を包み込む。
当のロイは、スヤスヤと眠ってしまっている。
「あ…あの…」
「―…失礼しました」
ホークアイが一礼すると、ガチャン、と扉は閉められた。
エドの頭が真っ白になる。
彼女は一体どう思ったのだろう。
何故、自分だけがこんな思いをしているんだろう。
段々、腹が立ってきた。
その時ちょうど、ロイが目を開けた。
「鋼の?今は…」
何時だ、とロイは聞いてくる。
今度は本当に起きたらしい。
全く、お気楽なものだ。
もう怒りは頂点に達していた。
「とっとと起きやがれ!この腕、早く離せ!」
目覚めたばかりのロイは、全く状況が掴めない。
肌を合わせた後。
本来なら、恋人らしく、甘い時間を過ごしているはずなのに。
目を開けたら、エドが猛烈に怒っている。
頭の中に疑問符ばかりを浮かべている間に、エドはあっという間に腕から抜け出し、ベッドから飛び降り、スタスタと扉から出て行ってしまった。
***
翌日、夜勤中。
結局考えても、自分の眠っている間に、何があったのか分からない。
あそこまで怒ってしまっているのだ。
次に会える日は、いつになる事だろう。
自然と、溜め息が漏れてしまう。
仮眠室で、ぎゅうと枕を抱きしめながら、眠りの世界へと落ちていった。
「大佐、こちらの書類・・・」
ホークアイが仮眠室に入ると、枕を腕に閉じ込めるロイの姿が飛び込んできた。
「・・・・・・」
それを見て、昨日の光景を思い出していると、今度はハボックが仮眠室に入ってきた。
そのロイの姿を見て、銜えていた煙草を、一端口から離す。
「何でいつも枕抱いて寝てるんスかね、大佐。本命ちゃんでも思い出してるんですかね」
「…そのようなもの、かしらね」
ホークアイの言葉に、ハボックは思わず煙草を口から落とす。
酷く驚いた様子で、ホークアイに詰め寄る。
「マジっスか!!?」
「・・・・・・」
ホークアイは口を開かない。
あの枕を、誰と思って抱いているのか。
仮眠室でロイが眠っているのを見る度、ホークアイは思い出すのだった。
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