触れられた箇所から、どんどん熱が侵食していく。







何処にもいかない










テスト期間中、獄寺は毎日ツナの家に来ていた。勿論、勉強を見るため。
ビアンキは運良く、食材の確保に出かけているし、何も心配はいらなかった。
ただ、心配なのはツナの方で。

「はー、明日の数学、憂鬱だなぁ。獄寺君のおかげで赤点は逃れそうだけど…」

「楽勝っすよ!」

「う、うーん?」

獄寺は楽勝なのだろうが、ツナは楽勝、とまではいかなさそうだ。
しかし、獄寺と知り合ってから、確かに点数は上がりつつあった。
だが、心配なのは勉強の事ではない。

最近では既に、意識する事から逃げられなくなってきた。
それほどまでに、ツナと獄寺。自分達の関係は進んでいた。
もはや、唯のボスと部下、という主従関係では納まらなくなっていた。

ただ、一線を越えていない。
そこが、問題だった。心配の種は、そこだった。


「ありがと、いつも」

素直にお礼を述べると、獄寺はニカっと笑った。
この顔が、とても好きだと思う。

いつもの表情が、柔らかく溶けていく感じが、
自分には心を見せているという露骨なまでのサインが、

とても嬉しく、愛おしい、と心から思った。

いっそ全て任せてしまえばいいと思う。前にも何度か、迫られた事があった。
獄寺に触れられた箇所から、どんどん熱は身体を伝わって。
いつも拒んだ後で、あの時、全て許してしまえばよかったのに、と後悔の念が押し寄せる。
そう思いつつも、獄寺が少しでもいつもと空気を変えようものなら、怯えて、拒んでしまうのだからどうしようもない。

いざ行動に移されると、どうしても 「待った」 をかける自分がいるのだ。

(よく、呆れないで付き合ってくれてるよ。獄寺君は)

自分ですら呆れているのに。

氷が溶け出して、カランと音を立てた。
オレンジジュースは見る度薄まっていき、とうとう水とオレンジの液体の二層に分かれ出した。
口をつけてはいけない気がした。
唇に触れる全てに、意識してしまいそうな雰囲気がしていた。
だから、グラスに水滴が垂れても、気にしないフリをして、一度も飲まなかったのだ。


(でも、触れたい、と思ってる。のは、多分マチガイない…)

幾度も拒んできた自分が言うのもなんだが。
それは間違いないのだ。決して、獄寺が嫌いだとか、そういう理由からではない。

チラっと瞳を移すと、社会科の教科書に赤線を引いていた獄寺と目があった。
またいつもの様に、微笑む。嬉しそうに。

「?何スか?10代目」

「な、何だろう、ね」

引きつった笑いを浮かべながら、教科書に視線を移した。しかしその瞳はすぐに、彼へと戻っていく。
体温が顔に集中して、頬が勝手に、赤くなっていく。
皆の前で赤点のテストを渡された時だって、黒板の問題が解けなくて怒られた時だって、廊下で派手に転んだときだって、こんなに熱くならなかった。

「−…10代目?」

絡み合っていく視線に堪えられずに、そうっと視線を外すが、それが合図になった。
片手で後頭部を引き寄せられ、そのまま深く、交わった。
目の前が真っ白になるという感覚を、初めて味わった。気がした。
粘膜の音と、自分から漏れる別人のような声に、頭がパンクしそうになる。

「…っん、ん…っ」

いつもの癖で押し返してしまいそうな手を、ぎゅっと握り締めると、覚悟を決めた。
解放された唇から、吐息を漏らすと、そのまま獄寺の胸の中に倒れこんだ。
獄寺の背中に回ってはいるものの、おどおどして躊躇っているいる腕を思い切って、力を込めた。


初めての、一番の、部下。
それだけ?ーでは、なくて。だから、


もう、拒んで、怯えて、彼に傷をつけたくない。



「…ごめん、いっぱい拒んで」

もう、平気だから。
小さく、だが精一杯の気持ちを込めて、やっと言葉に出したようだった。


ー可愛くて仕方ない。



「…10代目…!」






初めて、自分の声で目が覚めた。


瞳の先には、ツナの姿は勿論、ツナの部屋の風景すら見えない。
あるのは、高い天井だけだ。



「え、10代目…何処に…?な…ちょ、…は?」



ここはどこなのか。
10代目は何処へ行ってしまったのか。
さっきの続きは。


辺りを見回すが、頭が回らず、さっきまでの光景が夢だったという事も把握できていない。


カーテンの隙間から、温かな日差しが差し込んでくる。
そんな朝の出来事だった。











ほんとアホ話ですいませんでした。タイトルから想像できるような甘い話でなくてほんとに汗
恥すぎました。

この後 たまらず現実世界でツナに迫ってドン退きされる獄犬。(現実ってキビシイ…!!)



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