障害などなかったように思う。
昔は距離なんてどうとでもなる、さして気にはならない、と思うほど、
彼は遠距離恋愛向きな人間だったんではないだろうか。いや、単に淡白であった、とでも言おうか。
情熱や愛が、距離を越えるとか、そういう事を思っていたわけではなかったのだろう。

彼という人間は、きっとあまり寂しくならないのだ。
だから、距離なんて別段、気にする必要は無かったというわけだ。

ところがどうだ。
『今になって、年甲斐もなく夢中になっている子がいる』
そう言われた。
『イタリアと日本との距離を、どうしようもなく憎んでしまうほどに』





400びん








「見つめると真っ赤になって、オレの言うことは何でも信じちゃって、犬コロみたいに懐いてきて、いや、マジで可愛いんだって」

この世で一番幸せそうな笑みを浮かべながら、ディーノの形のよい唇は動く、動く。
ロマーリオを筆頭に、ディーノの側近全て、もう何十回か聞いた話に耳を傾けていた。
こんなにも饒舌になる時は、決まってオノロケの時だが、つい最近までは、こんな調子に甘い話は出てこなかった。
女性との色恋沙汰。
色気のある話は滅多にしないが、部下が聞けば作りものめいた美しい笑みを浮かべながら、
「ああ、あいつは綺麗だな」と、ディーノ特有の色気を漂わせ、一言、二言、語るくらいだったのだ。
本気なのか遊びなのか、それとも内に情熱を秘めているだけなのかー
そんなところが最高に魅力的だったのだ。自分からは決して溺れない、我らがボスはー。

いつしか、幸せそうな顔をして、にこにことある少年の話をするようになった。
どうやら付き合っているのは、同盟の中でも最も力のあるボンゴレー、未来のボンゴレ・10代目であった。
沢田綱吉は、男である。細っこく、色気など無いわけである。
それに、ボスはひどい具合に溺れているわけであるー。

うっすらと笑みを浮かべながら一つ溜め息を吐くと、ロマーリオがコーヒーに口を付ける。
すると他の側近達も皆、コーヒーを啜り始めた。

「あー早く会っていちゃいちゃしてー。好き、愛してる、ツナ、まじで惚れてる。結婚して」
「おいおい、ボンゴレ10代目はここにいないぜ、ボス」

酔っているようだが、酔っているわけではない。
沢田綱吉の魅力は分かりかねるが、ディーノが相当ぞっこんだというのは、十分、理解できた。
こんな風に恋人を周囲に話す人間ではないし、まして、のろけなんてもってのほかであって。
それがあの少年と恋に落ちてからは、余裕の笑みを見せての話なんて、出てこない。
いつも満面の笑みで、時にはどんよりとした面持ちで、いつだって余裕など感じられなかった。

そう。ボスになりたての頃とは違い、いつしか、周囲に対して大人の男だと、
出来た男だと認めさせるくらいの人間になっていた。
あっという間に他の人間を魅了してしまう容貌に、人を引き込む話術に、優雅な物腰。
しかし時折見せる温かな笑顔との、ギャップ。何かに対して溺れるなどということは決してしない。
周りにいる人間を溺れさせることなどは、容易かった。

「ほんと、可愛い」
「ボス、それ、今日40回目」
「そんなに言ったか?」
「言った」

本当のことだからいいけど、と口にすると、またどこがいいだのたまらないだのと、話し始めた。
ロマーリオが他の面々に視線をやると、ヤレヤレとした風に、しかし皆、口許を上げて微笑んでいた。
余裕ある、以前の彼ではないが、こんなボスを見るのはとても幸せなことだった。
ディーノの話に、頷いていると電話のベルが鳴った。
ディーノはそれを取った途端に、蕩けるような顔を見せた。これだけで、誰から掛かってきたのか、皆、理解していた。

「…ツナ?元気か?…ああ、オレも」

誰にも聞かせたことのないような、甘く優しい声に変わる。
ヤレヤレと視線を交わしながら、笑い合った。

「うちのボスを手玉にとっちまうんだから、ボンゴレ10代目は大したもんだな」
「ノロケは1時間以内で勘弁してほしいぜ」

はははは、と揃って笑い合うが、ディーノは周りの声など聞こえていないらしい。
相変わらず、幸せな顔をして、受話器を放さない。
やれやれ、ロマーリオはもう一度、微笑みながら溜め息を吐いた。

この電話が終わったらまたあと何時間か、ボンゴレの話が始まるのだろう。
いや、今日は受話器を放さないかもしれない。となると、明日か、明後日か。
そうなる前に、ボンゴレに、ボスのノロケがひどくて敵わないから、相手をしてやってくれと告げ口でもして、
イタリアに招待でもしてみるか。
突然、彼がやってきた時の、ディーノの、驚きと嬉しさに溢れたようなーああ、一体どんな顔をするのだろう。

そんなことを考えて、ロマーリオは小さく笑った。













「早くツナに会いてーな」

『え、え?オ…オレもです』



ラブラブ…!!


後日、ロマーリオの粋なはからいによって、ツナはイタリアへ!






***
カオリさんから頂いた素敵なディノツナ絵に文をつけさせて頂きました。
ツナにメロメロなディーノさんなのでしたv
ディーノさんって部下にとっても愛されていますよね!素敵!

カオリさん、素敵なイラストありがとうございましたーっvv




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