あんまり露骨な事は言うまいと思っていたので、
愛に満ちた言葉とかは、あまり言わないと思う。
というか。
周りいわく、俺がそういう事を言うと嘘っぽく聞こえるらしい。

だから、あまり口には出さないようにしておこうと思って。



例えば、殺してでも連れて行く なんて、そんなこと。




怖がる?

おチビさんが。

嫌われる?

おチビさんに。

どうだろう。




ー…言わないでいるけど。

















***








「…何だよ」

本を読むエドを、エンヴィーはジィっと見つめる。
空は見事な快晴。
日差しが強く、木の下で幹に寄りかかって本に集中しているエドだが、どうもさっきから落ち着かない。

理由はエンヴィーだ。
汗一つかかずに、影が届かない、日差しの当たる場所でエドをジーっと見ている。
…何が面白いのか分からない。

パタンと本を閉じると、エンヴィーに目を向けた。
…不思議な関係。
敵同士だが、時々、こうして一緒に居たり。
攻撃をしかけてくるわけでもない。

ただ、一緒にいるだけ。

…だけ、ではない。プラス少し、不健全な事も。


目を逸らすと、エンヴィーが影の中にやってきた。
すっと、影に溶け込む。
顔が近づいてくるのは分かっていたが、敢えて知らないフリをした。

「おチビさん」

もうそこには、エンヴィーの顔しか見えなかった。
口付け、られる。

「…っ!!やめろっつーの!」

慌てて手で口を塞ぐと、エンヴィーは後頭部に手を回し、つまらなそうに溜め息を吐いた。

「あーあ、たまにはおチビさんからしてくれたっていい位なのに」

すると、「よくねぇ」とポソリと返された。

…冷たい。
自分が冷酷なのは分かっているのに、それを棚に上げてこういう事を思う日が来るとは、思わなかった。
そんな事を思いながら溜め息を連発していると、エドが頭を抱え始めた。
ギリ、と歯を食いしばりながら、眉間に皺を寄せている。
ヒョイと本を覗き込むと、エドが行き詰っている理由が、エンヴィーには一発で分かった。
これは中々、難しい。

「助言、してあげようか」

「いらねー!敵のお前から助言されてどうすんだよ」

「敵だろうが何だろうが、利用できるものは利用した方が賢いんじゃない?おチビさん」

チラリと横目で見ると、食い入るように、本を見つめていた瞳が、エンヴィーの方に向いた。
プライドが高くて、単純で。

ー惹きつけられる。

ボソっと、エンヴィーが言葉を発すると、エドは何か気がついたように、また本を見つめる。
暫くして、ようやく眉間の皺が無くなった頃、エンヴィーの存在を思い出して、視線を向けた。

礼を、言うべきなのか。


「もしかしてお礼言うかとか、迷ってんの?」

可愛いねー、と馬鹿にしたように言うものだから、素直に礼も言えない。
プイとそっぽを向き、再び本を読み始める。

「お礼だったら、おチビさん」

ああ、言いそうになる。
言ってはいけないけれど。


言わないで いるけれど。









ー『ウロボロスに来なよ』




駄目だって言ったって、殺してでも。

連れていきたい、殺したって。



<…何て言ったら、怖がられるかな>

怖がるような性格ではない緒だろうが。
嫌われる だろうか。

自分は頭がおかしくなったのか。
嫌われる事は怖いくせに、嫌われても縛りつけたいと思ってしまう。
…矛盾する、想い。

唇を微かに動かすが、エドは気がつかない。
顎を強引に掴み、瞳を無理矢理自分の方に向けさせた。
エドが目を真ん丸くさせた頃には、既に唇を奪っていた。
チュ、と強く吸うと、緩く舌を絡ませていく。
口付けを交わしても、心は埋まらない。

唇を離しながら、思った。
エドと出会ってから、どこか壊れてしまったのだと。


<嫌だなー。俺だけ壊されるなんて。おチビさんも壊れてくれればいいのに>

ぼんやりと後頭部を掻いていると、エドの唇がうっすらと開いた。

「…なぁ」

「ん?」

「…お前、何で…」

「何?」

「…何でもない」

そこまで言うと、エドは黙ってしまった。
スッキリしない。
顔を覗き込むようにすると、直ぐにエドの顔がアップになった。

唇が、重なる。

だがすぐに、離れた。

「…おチビさ」

「…もう行けよ」

木陰で少し、薄暗いが、分かる。
ほんの少しだけ、頬が赤くなっている事。





「…もうちょっと」




そう言うと、自然と笑みが零れた。












歪んだ愛がチラリと。



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