汚い口では何も言わずに 僕の本当を知ったら 君は恐がって逃げてしまう だから ただ 心の中だけで hide 自分はずるいと思う。 それでもツナは、どうしても、山本武という人間を、そういう風に捉えたくないらしかった。 彼の中で生きていける「山本」は自分ではないのだ。 限りなく、大きな器でもって、人を許し、正義に満ち溢れ。 好青年という言葉を、そのまま人間にしたら、こうなる、というような男。 それがツナの中の自分なのかと思うと、吐き気がした。 そうして、その人物像を貫いていかなければ、彼の愛を得られないのだと思った途端、目の前が見えなくなった。 まるで何処か、暗い穴に、一人落とされたようだった。 どうでもいい、と全てを笑って受け流す事を、何故か周りの人間達は、「できているコだ」と言った。 おかしいと気がついたのは、どのくらいの年齢だったか。 ノートを広げたまま、寝てしまったツナの顔を見ると、うっすらと唇を開いていた。 すうすうと寝息をたてていたが、少し、唇を動かした。 何だろうと顔を近づけると、「リ…」と消え入りそうな声が聞こえた。 リボーンとは、あの、子供のことか。と気がつく。 その後、「獄寺」という名も呼んだようだった。イラっとした。 「なぁ、オレは?ツナー」 額にちょんと触れるが、そのまま寝息しか聞こえなくなった。 大きな人間なんかじゃない。 こんな小さな事だって、気になるのだ。 だけど、それなのに自分はずるい。 ツナを大事にしておきながら、ツナには本音を吐かない。 大事だなんて、言わない。 愛してるだなんて、絶対言わない。 そのくせ、他の娘には容易く好きだとか、ワケのわからない事を言う。 ツナに言えない事を、他の娘に言ったのだ。 重すぎる、愛。それがどんなにうざったいものなのか、山本は知っていた。 そしてそれは、確かに自分の中にあった。 ツナには言えない。 本気で愛を、吐き出したりしない。 (だってツナ、逃げるだろ…?ーオレの事、恐くなる。絶対…) ツナの首筋を、そうっと撫でると、くすぐったそうに肩を揺らした。 それでもまだ、寝ている。なんとも無防備。 まだ、山本はツナを頂いていない。 ひたすら我慢の毎日だった。 そういう関係になって、まだ日は浅いのだから仕方ないものの、山本にとっては、日が浅いか深いかは関係なかった。 今までが、そういう環境だったのだ。 山本は、野球部の仲間とはまた違う、どう見ても真面目には見えない青年達との交流も深かった。 そういう輪の中では寧ろ、それ目的の者が多かった。付き合いなんて、浅い内の方が良い。 いかに後腐れなくできるか、だった。 だから、一週間経っても、山本が恋人に、まだ手を出さずにいるという事実は、仲間達を笑わせた。 あの山本が、おあずけか。と、爆笑された。お前も本気で惚れたりするのかと、茶化すのだった。 そこに居る皆は、山本が腹の奥で、こんなにも重い感情を持っているとは知らない。恋人が男だという事も、知らない。 ただの軽い奴、だが学校では、問題も起こさない、良い学生。皆そう思っていた。 大事にしていると思う。自分でも。 だが。 (そろそろ、よくね?) 手が伸びそうになる。 どのくらい、この身体の奥底で、欲望が渦巻いているのか、少しは分かって欲しい。 そっと頬を撫でた。しかし声を上げたのはツナではなく、机の上にあった携帯だった。 「獄寺隼人」の文字。 「ー………−…ツナ、電話だぜ」 起きない。 何回、振動しただろうか。無機質な瞳で、山本はパカリと携帯を開くと、何の躊躇いもなく、電話を切った。 ああ、履歴も消しておかないと。 数回ボタンを押すと、着信履歴から獄寺の文字を消した。 何事も無かったかのように、携帯を閉じ、元の場所に戻す。 すると、ツナが目を覚ました。 「ん……あれ…ごめん、寝てた…」 「すげー熟睡してた」 人の良さそうな笑みを見せる山本は、まさしく、ツナの中の「山本」だった。 ゴシゴシと目を擦ると、焦点の合っていない目で、ノートを見た。 山本が笑って教科書を開くと、にこりとする。 「あ、山本全部終わったんだ」 「ツナが寝てる間にな」 笑うと、ツナは照れたように教科書に目をやった。 彼の「山本像」を崩さないように、山本は笑っている。 (オレみたいなのに捕まっちゃって、これからどうすんだろうな、ツナ) 一生大切にするし、一生愛す。 ツナが望むのならば、ずっと、演じ続ける。 恐がって、逃げていかないように。 だがもし、気がついて、逃げようとしたって。 絶対に、逃がしてはやらない。 もう、とうに、遅すぎるのだ。 ひんやりとした心の奥で呟きながら、また、笑った。 |
山本が凄い具合に壊れておりますがな!こわいよー…汗
だけど山本大好きです。
白い山本も好きなのです、が。黒山も好きです。
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