甘い言葉が欲しいのか、優しい言葉が欲しいのか
それとも全てを包む、優しさを期待しているのかい?

そんなことは容易い御用だ。

ああーでも君、いつか僕の毒を全て飲んでくれると誓ってくれるかい、
今 目の前にある甘い蜜が、身体中を縛る猛毒だと知っても、恐れず飲んでくれるのかい

飲めないだろう
だから君はただ、甘い香りの虜になっていれば それでいいのさ











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「携帯、買い換えようかなあ」

帰り道。
夜風が吹き、寒さに肩を上げたツナが、鞄を漁り、携帯を取り出した。
山本がヒョイと顔を覗かせる。

「なんで?飽きた?」
「そういうんじゃないけど。壊れてるかも」
「…なんで」

首を傾げながら、パカリと携帯を開く。
時刻が映っているだけの、何ともサッパリとしたディスプレイだった。

「獄寺君、昨日電話くれたって言うんだけど、履歴にも残ってないし…」


うん、だってお前が寝ている間に、オレが消したから。


心の中で暴露するが、顔には微塵にも出さずに、困ったように笑ってみせる。

二人きりの空間。それを獄寺が邪魔をしたのが悪い。
おまけにツナが寝言で、獄寺の名前を呼んだのも、気に食わなかった。
ツナは、友人として、彼をとても大切に思っている、それは山本も知っている。
しかし、山本は容赦がない。

ツナが寝ている間に掛かってきた電話を、何の躊躇いもなく切り、履歴も全て抹消した。


「壊れてんじゃねーの?それか、獄寺が何か勘違いしてるか」

壊れたかなあ、と、ツナは溜め息交じりに口にする。

その時、ガサリと音がした。茂みの方からのようだ。
唯でさえ、消えそうな電灯ばかりが、均一の距離を保って、並んでいる道だ。チカチカ、チカチカ。薄気味悪い。
また、ガサリと音がしたかと思えば、茂みから、瞳をエメラルドに光らせた猫が現れ、二人の前を横切った。
ツナは肩を、思い切り上げて驚いた。山本の裾をギュウっと握り締める。

「なに、ツナ。こわい?」
「や、こわ…こわいんじゃないけど」

驚いた、と、まだ肩を上げている。
面白そうに、ツナの肩を抱き寄せると、ツナがまた、ビクリとした。
ツナの態度に、山本は敏感だった。


(…これもまだ、早いって?)


敏感なのは、いつ、真実がばれるのかわからないから、だ。それを恐れているからだ。
自分がどれだけ非情で、どれだけ冷酷か、を。

彼は一つだって、知らないだろうし、もう知ることもないだろうと、思うたびにー…やるせなくなってしまって。
こんなに、胸を刺すような、そして限りない靄がかかるような。
こんな痛みや不安を抱くこと自体、どうかしていると思わないか。心の中で、ひっそりと暗い声が聞こえた。

全てを愛してほしいとー…望む度に、それはいけないと、止められる。−自分にだ。
貪欲に愛を求める行為を、直接見てきたのは自分だ。
そして、愚かだと思ったのも、限りなく冷酷な態度で跳ね除けたきたのも、自分だ。
あるいは、限りなく極上の笑顔でもって、もっと酷い仕打ちをしただろうか。


それすら、良く覚えていない。
静かに瞼を閉じると、心地よい声が、名前を読んだ。


「山本ーやまもと、…やまもと?」
「ん?ああ、ごめん。何?」
「野田、野球部に入りたいって言ってたよ」
「へえ」

野田って誰だと思ったが、山本は聞かなかった。
何を言えばいいのか、何を言わない方がいいのか、それを十分、分かっていた。
野田が誰なのかはどうでもいいのだが、ツナが関わってくると、そうもいかない。
接触があった、という事なのだ。野田という人間と。

(野田、ね…)

名前を繰り返していると、ツナが目を輝かせて、語り始めた。

「野球、小学生の頃からやってたらしいんだけど、中学に入ってから、塾が忙しいんだって。山本の事。凄いって言ってた」

憧れてるって。
と、ニコニコと嬉しそうに話すツナは、とても愛らしい。




ああ、ここは、−そうか。


「マジで?照れるなー、…でも野田が入ってくれんなら、嬉しいんだけど」

オレに出来ることがあるなら、力になりたいし。と、ふざけながらも、おちゃらけてはいない微笑みも向けた。
ツナは嬉しそうに、また笑った。
望む言葉と、望む態度をくれてやると、ツナは蕩けそうな瞳で、自分を見てきた。
それが堪らない、と、同時に。どうしようもないくらい切なくもなる。

その瞳に映っているのが、もし、もしもー何も着飾っていない、優しくもない、情の欠片もない、男だったなら。

どんなに嬉しいか。


考えては虚しくなるだけのことを、それでも考えずにはいられない。
己の愚かしさに口許を上げると、すうっと、緩やかな風が吹いた。
ツナは風を感じる度に、何らかの形で「寒い」というリアクションを取るので、見ていて面白いと思っていた。
また、風が空気を切る音をさせながら、木々を揺らし、ザワザワと音が聞えた。
寒いのか、ツナは山本の方に寄り添っている。ぴたりと身体が密着するほどに。

貪ってしまいそうな唇は、微笑みを作り、掻き抱いてしまいそうな腕は、その唇に持っていった。
封印する、様々な自分を。俺を見つけてくれと、狂ったように叫ぶ心にも、背を向けて。







今日はやけに、冷たい風が吹く。













山本がこわい…ぶるり
なんかもう本当の意味でツナに 山本死ぬほど愛してるって言わせたくなっちゃった…
だからとりあえずツナ大胆になれYO−!?<な なにを




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