暗闇を、ひたひたと歩く。ツナを挟んで、3人で。
いつもの如く、表情を崩さないリボーンだが、それでも、何処か不機嫌そうにしている理由は、ツナの隣にあった。
金色の髪を揺らしながら、肩に鷹を乗せている。
軍人のような格好をしている普段とは違い、今日はやたらと上品な姿。

「コロネロって、そういう格好すると別人みたいだなあ」

二人に挟まれているツナが、コロネロに視線を投げかける。
スーツが普段着のリボーンとは違い、彼がこのような格好をすることは滅多にない。
黒いスーツには薄っすらと縦のストライプが入っている。中のネクタイには、少し抑え目の黒に、細かなドットが入っていた。
堅苦しいものを嫌う彼だったが、たとえ正式な場所での食事だとしても、それは同じことだった。
しかし、今日は特別だ。ツナとリボーンと、3人での食事。ツナが「スーツ姿が見てみたい」と言ったものだから。
大急ぎで、適当にスーツを調達してきたのだった。









堅苦しいのは好きじゃない










ーどうやらリボーンと二人だけのディーナーの予定だったらしい。
リボーンは3人で出かけることが、かなり不本意のようだった。

「そうか?」
「ん。かっこいいよ」

ツナの優しい笑みを貰い、リボーンに目をやるが、リボーンは何食わぬ顔つきであった。
勿論、表情には出さぬだけであって、内心苛々しているのだろうということは、コロネロには分かっていた。
そしてコロネロも、それを分かっていても、引くつもりはなかった。

「ー…リボーンと食事だなんて、久しぶりだな。スカルに言ったら羨ましがられる。お前のこと、やたら尊敬してるから」
「ああ?」
「あいつは素直なようで素直じゃねーけど。確実にお前に惚れてる」

軽い口調で、淡々と話すコロネロの言葉に、ツナの顔色が、微かに変わった。
まあ、コロネロも、少し「それ」目的であったりもするわけだが。
リボーンは勿論、顔色を崩さないでいた。馬鹿馬鹿しい、と言った感じであった。

「−……へー…」

深く、落ちていくような声をツナが出した途端、漸く、リボーンが少し顔色を変え始めた。
コロネロを一睨みするが、コロネロは全く怯まない。
それどころか、レストランの扉のすぐ近くまで行くと、ツナをエスコートするように、手を取る。
すると、ピキ、と、リボーンの発するオーラに、ヒビが入ったのが、ありありとに分かった。





静かなクラシック曲がBGMの店内からは、見事な夜景が見える。
料理もさることながら、ムードある店の雰囲気なども、この店の人気の一つであった。
予約していたテーブルまで、ウェイターが案内し始める。
テーブルに着くまでの道、−…ほんの僅かだが、やたらと視線を感じる。
というか、入った瞬間からだった。
店内は少し薄暗いが、夜道よりはよっぽど明るいのだ。

(−…この二人と歩くと、なんだかなあ)

目立ちすぎるのだ。洗練され、常人離れしたオーラといい、見目麗しい容姿といい。
食事をしながら、色々なことを語る。
コロネロは、リボーンの幼馴染だ。当然、ツナが知らないリボーンのことも知っている。
それを聞くのが楽しくもあり、少し寂しくもあった。

「……ま、お前の方が、きっとオレの知らないコイツのこと、知ってるぜ」
「え、………」

ツナは首を傾げる。どう考えても、コロネロの方が知っていそうだ。
しかし、彼はさっき、リボーンと食事するのが久しぶりだと言っていた。
最近は、あまり会えていないのだろう。

(…うわ、オレ、馬鹿ー……)

自分の知らないリボーンを語られるのが、少し寂しい、だなんて。
嫌なことを思ってしまった、と、自己嫌悪。
コロネロの方が、きっと寂しいだろうに、彼は寂しそうな面を見せないでいる。

「……たまにはコロネロも、一緒に食事しようよ」
「は?」
「あ、ほらー……えーと」

ここで、きっと、リボーンとあまり会えなくて寂しいだろう、とか言っては駄目なのだ。
それでは台無しだ。
ツナはワタワタとしながら、とりあえず、ワインを一口。
コクンと喉を鳴らすと、漸く、コロネロを見た。

「……オレもコロネロと、たまにはご飯とか食べたいし」

意外な言葉だったのか、目を見開いている。
その後、ほんの少し照れたコロネロが、ツナの瞳に映った。
こういうところは、可愛らしい。もうすっかり、背も高くなってしまったし、昔とは変わり果ててしまったがー
ワインを一口、一口、と飲み進めていく。
ウェイターが注ぐのも断らずに、知らず知らずの内に、ツナはかなり飲んでしまっていた。

(−……ちょっと、やばい)

気持ちが悪くなってきた。
二人に、トイレへ行くことを告げ、席を離れた。案の定、少しぐらりと身体が傾いたような気がした。
カツン、と、靴の音を響かせると、リボーンの手が腰に回り、ツナを静かに支えた。

「−…ありがと。大丈夫だから」

それでも少しフラリとしているツナが席を離れると、二人の間には、微妙な沈黙が流れる。
コロネロは口許を上げ、鋭い眼光でリボーンを見つめた。

「…お前にしちゃ、随分可愛がってるみたいだな」
「ぬかせ」
「あいつー…、スカルにもそれくらいしてやれよ。お前の大事なパシリだっただろ?」
「お前のパシリでもあっただろうが。…スカルにも随分会ってねぇな」
「オレはこの間会ったぜ。お前に、会いたがってた」
「あいつも可愛いこと言うじゃねーか」

顔色、声色一つ変えぬまま、リボーンは淡々と話していく。
コロネロも、リボーンよりは表情があるとはいえ、やはり、淡々と話す。
基本的に、コロネロも自分と同じ種の人間だということは、リボーンは理解していた。
表情をあまり変えずに、その心を決して、他人に読ませずに。
だから、非常に珍しいことだったのだ。
時折、ツナの前で、表情を崩し、少し頬を赤らめる、彼は。
ー…非常に不愉快だが、それを顔には出さずに、夜景に視線をやっていると、コロネロは再び、口を開いた。

「会ってやらねーのか?」
「誰に」
「スカル。決まってんだろ。」
「ー…何だ、今日は妙にスカルの肩を持つじゃねぇか」
「そりゃあ、な。ー…オレもボンゴレ10代目は気に入ってる」

お前とスカルが上手くいきゃ、こんな上手い話はない。
ーつまり、そういうことであった。
元から今日は、不機嫌極まりなかったのが、今、この瞬間。
更に、リボーンの纏っている空気が、凄まじく不快感を示しているのが分かった。

「殺すぞ」
「返り討ちにしてやる」

尚も余裕を崩さないコロネロに、リボーンは更に、瞳に怒りを映した。
それから数秒。二人は同時に、胸元から銃を取り出した。
互いに向かって、打つポーズを決める。

「ー…久々に、やるか」
「いいぜ」

良くやった、銃の撃ち合い。
互いに、腕は少しも鈍っていないであろうことは分かっていたし、むしろ強くなっているであろうことも、分かっていた。
銃を互いに向け合った二人に、他の客はざわめき始める。
まさか本物のマフィアだとも、本物の銃だとも思わないらしく、何かのパフォーマンスかと感じているようだ。
コロネロが、クッ、と、引き金を引きかけた時であった。
ウェイターの声が、微かに二人の耳に届いた。

「…お客様?大丈夫ですか?」

トントン、と、トイレの扉をノックしている。
リボーンは、腕時計をチラリと見ると、そろそろか、といった具合に、席を立つ。
コロネロも、銃をしまい、再び、ワインに口をつけた。
すぐに、リボーンは戻ってきた。
潰れたツナを、背中におぶって。
さすがのコロネロも、少し驚いた様子で、リボーンを見ている。
ツナをおぶったまま、二人はレストランを出る。
その間中、客達は彼らの方に視線を向けていた。






帰り道、二人は特にペースを乱すこともなく、歩いていた。
ツナをおぶっているというのに、リボーンはあたかも、一人で歩いているような様子であった。
そして、背を揺らすことはない。静かに、歩く様子を見て、コロネロは一つ、息を零した。

「……随分、可愛がってるじゃねぇか」
「二度目だ。……殺すぞ」

コロネロはもう一つ溜め息を零すと、もう片方の手で、ネクタイを緩めた。

ネクタイなんて、二度と御免だ。
堅苦しいのは、好きじゃない。
けれど、あの、リボーンの背中で潰れている坊やの口から望みの言葉が出れば、
いとも簡単に、次のスーツを新調し、ネクタイを締め。
容易に想像できてしまう。


ーああ、だけどやはり、堅苦しいのは、好きじゃない。











某サイト様のコロネロがとてもかっこよかったり、某サイト様の日記にリボツナコロとあった為、私の中で何かが目覚めたようです
コロネロはスーツとか着ないし、着たくないけど、ツナが言うから無理して頑張りました、というお話…?なのでしょうか?<聞くな
ええ?これ、リボツナ?コロ→ツナ?…?というかスカ→リボ…?えエ…!?チンプンカンプン。でも一応リボツナなんです。そのつもりです。
リボーンはツナに「お前は飲みすぎだ」とか注意してあげてるのが良いと思います。





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