目の前に、彼が居るのに、話せずに沈黙を守ること、15分。
なんなんだろう、この空気は。




彼が強い事は分かっているのだけれど、流石にこう徹底されると、踏み込めやしない。








***




エドが中央へ来れば決まってロイの部屋に来てくれる。
それは勿論、嬉しい。
たとえ、賢者の石や人体練成についての情報目当てだとしても、だ。
エドは、ロイとの再会を喜んだ事など一回たりとも無い。
不敵な笑み以外の笑顔を見せようとはしない。
それが悲しい。

彼の強さは知っている。
自分等いなくても、きっと微塵にも思わないのではないだろうか、と思う。
たとえ、自分がエドの恋人だとしても、頼られるのは「情報」が無くなった時のみで、喜ばれるのはその「情報」を与えた時のみ、だ。


<虚しい・・・>


目の前に恋人がいながらも、話すらままならないとは。
こんな事があっていいものだろうか。
しかしエドは本に魅了されたまま、こちらを見ようともしない。
このまま、本に時間を奪われては堪らない。

次会えるのが、いつとも知れないのに。

「・・・鋼の。少し休んだらどうかね」

「ああ」

アア、と言いながらも、エドの瞳は本から離れない。

もうあの本を、破り捨ててしまおうか。

そんな考えが頭を過ぎる。
するとエドが、やっと本から目を離し、ロイの方を見た。

「…生きて会えたな、大佐」

ニヤっと、また不敵な笑みを浮かべる。
こっちも応戦して、口元を少し上げて笑みを浮かべてやった。

「そうだな」

だが次の瞬間にはまた、エドの瞳は本に戻ってしまった。

「次はどうかな。生きて会えるといいな」

「…そう、だな」

何気なく言われた言葉が、ズンと胸の中に落ちた。
エドが死ぬわけはない。
エドの「強さ」を信じている故に、漠然と、ただそう思っていた。
しかし、エドが何でもない風に、茶化して口にするのが、少し悲しい。

『次は どうかな 。 生きて 会えると いいな』

もう少しでいいから、不安気に言ってはくれないだろうか。




本当に、エドは。
自分が居なくなったら、悲しんでくれるだろうか。
会えなくなったら。
寂しいと思ってくれるだろうか。


バサっと、本の落ちた音がした。



「大佐…?」

気づけば、エドを腕の中に閉じ込めていた。

「…君は強い。私がいても、いなくても。会えても、会えなくても。君には何の影響も及ぼさないだろう」

「…誰が強いって」

「君が」

「当たり前だろ…っ」

キっとロイを見上げた後、少し眉を顰めたのを、ロイは見逃さなかった。

「…鋼の?」

「なんでっ…」

バっと胸を押し返され、エドは身体を反転させた。

しまった。マズイ。出て行かれる。

そう思った。


「…どうしたというんだ!」

何とかギリギリの所で、エドの腕を捕らえることができた。
ロイに腕を掴まれ、それでも背を向けたまま、エドは言葉を発した。

「…俺は強い」

「知っている」

「だけど…でも…そうじゃない…」


段々と、か細くなる声。

ロイは軍人だ。
いつ、会えなくなる場所に逝ってしまうか分からない。
それを思うと、心が詰まる。
悲しいし、怖い。

いくら強くあったって、この、大切なものを失うかもしれない不安や恐怖は、きっといつになっても拭えない。

『次も 生きて会えれば いい』

それだけで、かまわない。
切実な、本当に切実な願いだが、それを真剣に言う事はできなかった。
茶化して言う事が、精一杯だった。

ゆっくりと、ロイの方を振り返る。
不安気に、眉を顰めながら。
顔を、赤らめながら。

「大佐が、いなかったら、俺は…だから…」

ロイは目を見開いて、エドを見つめている。
一瞬だけ目を見る事ができたが、すぐに俯いてしまった。

「だから…。…〜〜…っ…」


ーここまでが、精一杯だった。
顔を真っ赤にしながら唇を噛む。
ロイが触れている腕から、急に熱さを感じて、勢い良くロイの腕を振り払うと、勢い良く扉を出た。

「鋼…!」

バタン!











ロイの引き止める声も虚しく、既に部屋を出ているエドは、ズンズンと司令部の廊下を歩く。




次に会う時は、もっと強くなっていたい。

そしてもう少しだけ。


・・・素直に。















あーイカンー…こりゃイカンYO〜…
エドは素直じゃないのが私的に良い。



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