「風紀委員長にして最強の不良」
並盛中に留まらず、その名を言えば、近辺の者は震え上がる。
雲雀恭弥ー・・・

「雲雀さんに、新しいペットが出来たって!」

こんな噂まで、並盛までに留まらず、他校の連中にまで知れ渡ってしまったものだから、
ツナはたまったものじゃなかった。






恋心









『一般的な愛が何なのか、知っておいて損はない』
君が教えてくれないー?
そう言われてからというもの、ツナと雲雀との関係は一気に親しいものとなった。
親しいといっても、ツナはまだ雲雀の近くに寄るのを怯えていたが、
雲雀はやたらとツナの事を呼び出して、側に置いていた。
別にペットだとかどうだとかそんな事は一切ないが、雲雀には元々、何人かの『ペット』が存在した。
動物を飼うよりも人間を飼った方が面白いからー、
雲雀は並盛の適当な生徒をペットに抜擢していた。
ペットと言っても、ほぼ下僕と変わりはなかった。
しかし、弱かったり、飽きたり、気にいらなかったりと、大抵1週間程度でポイと投げ出したので、
ペットに任命された人間は自由になれたのだ。

しかし、ツナはどうだ。
もう何週間か経っているのに、一向に雲雀から離れる気配がない。
繋がれている。だから皆、騒ぎ始めたのだ。
勿論、獄寺や山本も黙ってはいなかった。
何かあるなら、話をつけるとまで言ってくれたが、そんな酷い事をされている訳ではない。
ツナは大丈夫大丈夫、雲雀さんとちょっとだけ仲良くなったんだ、と言っていた。


応接室に二人。
シィンと、音が聞こえてきそうなくらいに静まり返っている。
雲雀は紅茶に口を付けていて、何を考えているのか、ツナには全く見えない。
肩を縮めて雲雀と少し距離を取って座るのは、いつもの事。
膝にきちりと手を置いて、ビクビクとしている。

「・・・どうしたの」
「え、や、どうもしないですけど」

横目でチラリとツナを見ると、ティーカップを置いた。
カチャン、という音にすら、ツナはびくっとしてしまった。
それを隠すかのように、ツナは慌てて話始めた。

「・・・あ、あの、オレって雲雀さんのペットってことになってるんですか・・・」

自分で聞いておいて、何だこの質問は、と、頭を抱えたくなった。
今度こそ、雲雀にこてんぱんにされてしまうかもしれないと思って、ツナは雲雀の方を見れない。
雲雀はその瞳にツナを映したまま、口を開かない。
ツナは相変わらず、雲雀の方を見ずに、カチンコチンになっていた。
雲雀の方を見たら最後、目を逸らせないのだ。雲雀はそういう、
相手を強く捕らえる力を持っている人物だった。

「・・・君ならペットにしてあげてもいいよ」
「は」

ぐいっとツナの肩を寄せると、雲雀は自分の肩に凭れかからせた。
黒い学ランを羽織っている肩に、汚れがついたら張った押されると、ツナはまたビクビクしてしまった。
肩を上げ、心臓をバクアクさせていると、雲雀の手が優しく、ツナの髪の中に入っていく。
ふわりとした柔らかい茶色に触れるのが、雲雀は好きだった。
他の人間の髪の毛に触れるという行為は、今まで意味が分からなかったが、
ツナの髪の毛は、気持ちがいい。
悪く、ない。そう感じていた。

「ペットならペットらしく、少し甘えたら?」

ツナのこめかみ部分に、ちゅ、とそっとキスを落とされ、ツナは身を固まらせてしまった。
雲雀は度々、こういう事をする訳だが、どうもツナは慣れなかった。
否、慣れるはずがなかった。
どうしてこういう事をするのだろうとグルグル頭を回るだけで、特に思いつかない。
雲雀に呼びつけられる度に、今日は殴られるかもしれない、
トンファーでメッタ打ちかもしれないと不安で堪らなくなるのだが、
そんなことはなく、こうして優しく、触れるだけだから、段々と、ツナもホっとしてくるのだ。

「・・・雲雀さん、オレのこと殴らないんですか」

ツナがそんな質問をするものだから、雲雀はきょとんとして、首を傾げた。
上目遣いに見つめるツナの瞼にも、キスを落とす。

「−・・・殴って欲しいの?」
「ち、違・・・!!や、その、雲雀さん、怒らないでください」
「…怒らないけど」
「−・・・何か、優しいな、って」
「誰が」
「雲雀さん・・・」

空間が止まったように、今度は雲雀が硬直した。
優しいー優しいとはどういう事だっただろうか。言われたことがない。ただの一度すら。
大体、自分にとっては褒め言葉でも何でもない。
しかしー不快ではない。
ツナがへらりと笑うと、雲雀はツナの後頭部を掴み、顔を寄せた。
ツナは思わず引いてしまいそうになったが、雲雀がそれを許さない。

「・・・君はまだ、一般的な愛だとか、恋だとか、全然教えてくれてないよね」

嘘。本当はもう結構、分かってきている癖にー
自分の中から声が聞こえる。
殴らなくても、切り刻まなくても、いいと思ってしまったのだ。
愛しいと、思うようになってきてしまったのだ。
それはただ一人。一人だけ。

「君が接して、教えてくれるんだろう?君が言う、”恋人”にする風に」
「え、あ、・・・え・・・!」

いつの間にか、ソファーに押し倒されていたツナは驚いて、雲雀を見上げれば、
整った顔はすぐそこにあった。
こんなに綺麗な顔なのに、どうして誰も寄せ付けないのだろうとか、そんな事をぼんやり考えていると、
すぐに唇が重なりそうになった。

「・・・ペットじゃなくて、僕の恋人にならない?」
「・・・こい、・・・は!?」
「・・・嫌なの?」

手首を握る力を、これでもかと言うくらいに強められ、ツナはそこだけ、
血の流れが止まったんではないかと思った。
小さく声を上げ、しかしまだ、締め上げられる。
抵抗なんてできない。する気も起きない。抵抗したら、殺されそうなほど、雲雀が恐かった。

「−どうする?」

トンファーまで出されて、首にピタリとくっつけられる。
ヒヤリとしたトンファーが咽喉に当たり、このまま絞め殺されてしまうんじゃないかと、ツナは恐怖した。
雲雀の目の奥の輝きもまた、どこか狂人的なものを持っていた。

(雲雀、さん・・・・・・・)

優しいと思った。けれどやはり、雲雀はこういう事で、喜びを見出す類の人間なのだ。
ツナは確信した。
ク、っと、トンファーが食い込み、少し息苦しさを感じた。

(こ、こわい・・・)

きゅっと目を瞑ったツナを見て、雲雀は唇を寄せた。
ツナのそれに、そっと触れる。驚いて目を見開いたツナだが、段々と深くなっていく口付けに、
思わずまた、瞳を閉じた。
離れてはまた、角度を変えて舌を差し込まれ、何度も、何度も、絡みあって、
ツウ、と、唾液がツナの唇から伝った。
唇から全て、奪いつくされるようだった。

「・・・ん、・・・っ、」

やがて解放され、そっと瞳を開ける。自分の目が、潤んでいるのが分かった。
雲雀が、水の膜で歪んで見えた。
瞳を潤ませ、泣いてしまったらー。
弱く情けない姿を見せたら、雲雀はどう思うのだろう。
打たれないで、帰られるのだろうか。ツナはそんな事を考えていた。

「・・・綱吉・・・」

掴んでいた、恐ろしいほどの強い力。
ヒヤリと首に当たった、トンファー。
それらとは裏腹に、優しい声色で呼ばれ、そっと、頬を撫でられる。
殴られるかと思い、ツナがビクリと目を瞑ったが、触れてきたのが優しい手であるということが分かると、
そっと、目を開けた。



こんな風に縛ってしまったり、泣いてしまう彼を、可愛いと思ったりするのは、
一般的に言う、愛ではないのだろうか。
自分の物にする為に、この力で脅してみせるのは、一般的ではないのだろうか。
歪みきっているのだろうか。

それでも、知ってしまった、最初で最後の恋を、諦める訳にもいかない。

(君には、悪いけれど)

普通の愛し方はきっとできないけれど、離すつもりはない。
閉じてしまった瞳を開けることもなく、ツナは雲雀の口付けを受け入れる。
雲雀が触れる度、ツナは体をビクリと反応させていた。


怖がたって、捕まえればいい。
鎖でつないでおけないだろうか、などと考えながら、何度もツナに口付けた。


世間での一般的な愛などいらない。
彼からの、狂気的なまでの愛が欲しかった。
欲する心は、尋常なほどに。










色固さんに捧げさせていただいたものです〜!
尋常でないのはお前だと言われかねない小説です
アアー…
色固さん貰ってくださってありがとうございました!ついでにちなつも貰ってください<超いや




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