『兄さん、すぐお腹出して寝るんだから。それに時々、寝ぼける事があるんだよ。』








**






「あら。エドワード君、寝ているんですか。」


「ああ」

気持ちの良い昼下がり。
ロイの個室の仕事部屋のソファで、エドはスヤスヤと気持ち良さそうに眠っていた。
掛けてあった布団は無残にも床に放り出されている。
時折、既に露出された腹をボリボリと掻いていた。

「…気持ち良さそうに眠ってますね。仮眠室に運んだ方が…」

「いや、ここでいい」

一度、弟のアルフォンスから聞いていた。
エドワードの「癖」を。

その一、寝ている時に、すぐに腹を出す。
その二、ごく稀にだが、寝ぼけている時。

寝ぼけている、時。
普段の彼からは想像できないほど、甘えた仕草を見せる。

どんなものだろうと、書類にペンを走らせる振りをしながら、エドを意識していると、
エドがぼんやりとした瞳をしながら、ソファからゆっくり起きだした。

「…大佐」

ほてほてと、もう歩き方からして、いつもの彼とは違うのが分かった。

「大佐」

もう一度ロイを呼ぶと、ぎゅうっとその首に抱きついてきた。

「…っ」

驚きながらも、それに応えるべく、華奢な腰を抱きしめる。
普段では有り得ないエドの行動に、心臓が狂ったように鳴り響く。
暫くそのままの体制で甘えていたエドだったが、ごくっと唾を飲み込むロイの肩に顔を埋め始めた。
首筋に唇を当てると、また抱きしめる力を強くした。

恋人であるエドからこんな事をされたら、もう我慢も限界で。
ゴホンと咳払いをすると、視線をホークアイの方へ移した。

「…ホークアイ中尉。悪いが、少し外に出」

「仕事中ですから」

きっぱりと却下され、沈黙が流れる。
ホークアイは、ガタンと椅子から立ち上がると、ロイの机の方へ向かう。
エドの近くで思い切り手を叩くと、エドはパチっと目を丸くした。



「…目、覚めたかしら」




「へ…?ここ、どこ…」


自分は一体、何にしがみついているのだろうと、頭が混乱する。
状況が把握できないエドは、とにかく『しがみついているもの』から離れようとするが、離れない。
自分の腰に、何か巻きついている。

「…大佐、いい加減にしてください」

エドが目覚めても、中々彼を解放しようとしないロイに、ホークアイが睨む。
名残惜しげにエドの腰にある手を離すと同時に、エドがロイの胸を押し返した。

「大佐!!?」

ホークアイの一言で、自分の状況がやっと分かったエドは、すぐにそこから離れた。

「し、信じらんねーっ!勝手に何してんだよっ」

「いや、これは君から」

弁解しようとしたが、エドは頭から湯気を出し部屋から出て行ってしまった。
肩を落とすロイに、ホークアイは一言。
「書類、お願いしますね」
とだけ口にした。




* **





「え!?兄さん、大佐の前で寝ちゃったの!?」

「え?ああ…」

「・・・・・・」

何気なく、今日司令部で昼寝していた事を話題にしたら、アルからひどく驚かれた。
温厚な弟から珍しく殺気立つものを感じ、エドは頭を傾げる。

<…アル、なんか怒ってんのか・・・?>

むうっとしたまま、口を閉ざしていたアルだが、ようやく口を開いた。


「兄さん、大佐の前ではもう寝ちゃ駄目だよ」


「・・・はぁ?」


訳が分からない。
翌日、ホークアイなら何か知っているかもと思い、尋ねてみたが。
「気をつけた方がいいわよ」
の一言だけ言われ、エドはまた首を傾げる。

結局、エドだけは真実を知ることが出来ないのであった。







大佐、エドに逃げられすぎじゃ…


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