『兄さん、すぐお腹出して寝るんだから。それに時々、寝ぼける事があるんだよ。』
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「あら。エドワード君、寝ているんですか。」
「ああ」
気持ちの良い昼下がり。
ロイの個室の仕事部屋のソファで、エドはスヤスヤと気持ち良さそうに眠っていた。
掛けてあった布団は無残にも床に放り出されている。
時折、既に露出された腹をボリボリと掻いていた。
「…気持ち良さそうに眠ってますね。仮眠室に運んだ方が…」
「いや、ここでいい」
一度、弟のアルフォンスから聞いていた。
エドワードの「癖」を。
その一、寝ている時に、すぐに腹を出す。
その二、ごく稀にだが、寝ぼけている時。
寝ぼけている、時。
普段の彼からは想像できないほど、甘えた仕草を見せる。
どんなものだろうと、書類にペンを走らせる振りをしながら、エドを意識していると、
エドがぼんやりとした瞳をしながら、ソファからゆっくり起きだした。
「…大佐」
ほてほてと、もう歩き方からして、いつもの彼とは違うのが分かった。
「大佐」
もう一度ロイを呼ぶと、ぎゅうっとその首に抱きついてきた。
「…っ」
驚きながらも、それに応えるべく、華奢な腰を抱きしめる。
普段では有り得ないエドの行動に、心臓が狂ったように鳴り響く。
暫くそのままの体制で甘えていたエドだったが、ごくっと唾を飲み込むロイの肩に顔を埋め始めた。
首筋に唇を当てると、また抱きしめる力を強くした。
恋人であるエドからこんな事をされたら、もう我慢も限界で。
ゴホンと咳払いをすると、視線をホークアイの方へ移した。
「…ホークアイ中尉。悪いが、少し外に出」
「仕事中ですから」
きっぱりと却下され、沈黙が流れる。
ホークアイは、ガタンと椅子から立ち上がると、ロイの机の方へ向かう。
エドの近くで思い切り手を叩くと、エドはパチっと目を丸くした。
「…目、覚めたかしら」
「へ…?ここ、どこ…」
自分は一体、何にしがみついているのだろうと、頭が混乱する。
状況が把握できないエドは、とにかく『しがみついているもの』から離れようとするが、離れない。
自分の腰に、何か巻きついている。
「…大佐、いい加減にしてください」
エドが目覚めても、中々彼を解放しようとしないロイに、ホークアイが睨む。
名残惜しげにエドの腰にある手を離すと同時に、エドがロイの胸を押し返した。
「大佐!!?」
ホークアイの一言で、自分の状況がやっと分かったエドは、すぐにそこから離れた。
「し、信じらんねーっ!勝手に何してんだよっ」
「いや、これは君から」
弁解しようとしたが、エドは頭から湯気を出し部屋から出て行ってしまった。
肩を落とすロイに、ホークアイは一言。
「書類、お願いしますね」
とだけ口にした。
* **
「え!?兄さん、大佐の前で寝ちゃったの!?」
「え?ああ…」
「・・・・・・」
何気なく、今日司令部で昼寝していた事を話題にしたら、アルからひどく驚かれた。
温厚な弟から珍しく殺気立つものを感じ、エドは頭を傾げる。
<…アル、なんか怒ってんのか・・・?>
むうっとしたまま、口を閉ざしていたアルだが、ようやく口を開いた。
「兄さん、大佐の前ではもう寝ちゃ駄目だよ」
「・・・はぁ?」
訳が分からない。
翌日、ホークアイなら何か知っているかもと思い、尋ねてみたが。
「気をつけた方がいいわよ」
の一言だけ言われ、エドはまた首を傾げる。
結局、エドだけは真実を知ることが出来ないのであった。
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