[PR] この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。
真面目な学生は大変だな。 ーいや、真面目じゃないですけど。 夏休みくらい羽伸ばせって。どっか行ったりしねぇの? ー行きたいですけど、お金ないし、友達の家、くらいしか。 じゃあオレのとこ、来いよ。 ーイ、イタリア!? ん、そっちも来てもらいてーけど。別荘。一個買ったから、そこ行こうぜ。 もうすぐ日が落ちる さらりと買ったと言うには随分大きな買い物。 けれど彼にとっては、小さなものなのだろう。 ツナは受話器に向かっての言葉を一端止めて、「凄いなあディーノさんは」などとぼんやり考えていた。 イタリアからの電話。夏休み中に、ディーノは日本に来るらしい。 ツナはそれを楽しみにしていたが、ディーノは自分をどこかに連れて行ってくれるというのだから、 更に楽しみになってしまった。 (ディーノさん、早く来ないかな) もうすぐ夏休みも終わるが、彼が来てくれるのならば、その直後に夏休みが終わっても構わない。 ツナはディーノが好きだった。ディーノもまた、ツナが好きだった。 二人の好きの質は違い、距離はあったものの、二人はお互いに、あなたが好きだという気持ちを大っぴらに伝えていた。 それは、随分の違いだったが。 自分の家の前で、そわそわした少年が一人。クソ暑い。ツナはそう思っているのだが、どうしても部屋に引っ込めない。 いつ来るのだろうーと思うと、じっとしていられなくなってしまうのだ。 いつ会えるのか分からない兄弟子に、今日は確実に、会いに来ると言ってもらったのだ。 時折、気持ちよいくらいに晴れた空を見上げたり、それからまた、右、左、確認したりー 右、左、右ー (あれー…?) ディーノらしき人が、見える。車が無い。歩いて、こちらに向かってくる。 黒いシャツに、嫌味のない白さのパンツ。すらりとした長身に、金色の髪。まさしく、あれはー。 ツナに気づいて、手を振っている。紛れもなく、あれはディーノだった。 「ディーノさん!」 ツナは駆け寄ろうとしたが、もうディーノとの距離はそんなには無く、足を出した瞬間に、ディーノは自分の目の前に居た。 高いー高い背。きらきらと、金が光っている。凄いー凄いーと、ツナは少し、感動しそうになってしまった。 本当に、本当に、ディーノなのだ。彼が目の前に居る。 (わー…) 実感した途端、ドキドキと、最近では感じたことのないほどに、胸が高鳴り出した。 緊張しているのだ、という事に気がつく。本当は、出会ったら、抱きしめたかった。 デイーノの胸に、飛び込みたかった。それくらいー、ツナは懐いていたのだから。 けれど、それが出来ない。緊張している。とても、緊張してしまっているのだ。 「久しぶりだな、ツナ」 「ひ、ひさー、ひさしぶりですね、」 あわあわと必死に口を動かすがーなんだか自分の声が自分の声に聞こえない。 微かに震えたそれが、いかにも「緊張しています」と言っているようで、ツナにはとてつもなく恥ずかしかった。 ディーノの顔もまともに直視できなくて、ツナはしょんぼりと俯いた。 こんなんではいけないと思うのだがー。 「なんだよ、ツナ。どした?」 わしゃわしゃと髪を掻き混ぜられる。 上から、とてつもなく優しい、綺麗な微笑みを浮かべられ、思わず見惚れてしまう。 あ、やっぱり本物のディーノさんが帰ってきたんだーと、ツナはすっと、胸の中で感じた。 そしてそれが、じんわりと心の中の奥底まで染み込んでいき、うるりー涙で瞳が少し濡れてしまったのだ。 ゆらりとツナの瞳が揺らめいたのに気がついたのか、ディーノはヘラリと嬉しそうに笑った。 それはそれは、嬉しそうに。 そうしてツナの手を引いて、ゆっくりと歩き出した。 今日は車じゃないらしい。 たまには電車に乗って、ツナと一緒にぶらりと歩いて、目的地に向かいたいと、彼が言うので、 ツナはほんの少し、笑ってしまった。 (それってやっぱり、ディーノさんらしい) 電車の中ではやはり目立つのか、プシューっと開いた扉に乗り込んだ瞬間、様々な人々が見てくる。 それも一瞬のことではなく、いつもではありえないほどの、長い時間だ。 女性の集団が居れば、必ず熱い視線を向けて、ヒソヒソと話す光景が見られる。 それも仕方ないことだった。大体、ディーノはこの長身だけで随分見られるのに、それに加えてこの顔があったなら、 注目しない方がおかしいとツナは思っていた。 日本に来てくれて、嬉しくて、彼が大好きで、兄弟子、だけれどー遠い。 ディーノは何もここまで、ツナに拘ることはないのだ。 いくら将来のボンゴレのボスだからと言っても、ここまで構う必要はないのだ。 いつだって、ディーノがこの手を離して、ツナと接触することになったっておかしくはない。 それはつまり、「マフィア」という繋がりだけで、仕事、だけでー。 (ーそれは悲しいな) 心の中で、ひっそりと、悲しくなっていると、やがて電車の扉が開いた。 駅を出たらバスに乗る。ぴたりとくっついて座るツナの頭を、ディーノは「ほら」と優しく、 しかし強引に自分の肩に凭れかからせた。 ディーノに甘えるのも、甘やかされるのも大好きだが、さすがにバスの中だと恥ずかしい。 しかもまだ、完全に緊張が解けてないというのに。 冷房が効いているはずなのに、何故か汗が滲み出てくるような気がした。 それからコンビニに行って、アイスと適当に食料を買い込み、向かった別荘は和を感じさせる、古風な家であった。 意外だった。ディーノが買うものだから、もっと特別煌びやかな、洋風なお屋敷かと思ったのだがー。 中に入ってみると、縁側に畳。とても落ち着きそうな別荘だ。 「落ち着くー…」 「だろ?オレも。ツナん家居るみたいで落ち着くから気に入った」 「へ?そんな。じゃあここ、買うんじゃなくてオレん家に居ればいいじゃないですか」 さらりと口にしたツナの言葉に、デイーノは目を丸くして、口を開けたままで、暫くポカンとしていた。 しかし暫くして、嬉しそうに後頭部を掻きながら、笑った。 「や、まあ、そうだな」 「あ、でもここの方が涼しい」 「そんなこと、どうでもいいけどー、ツナはオレが居てもいいと思う?」 「そ、りゃ…」 「ー…あんなにお兄ちゃん子だったのに。今日はツナ、あんま甘えてくんねーし」 結構オレ、内心ビクビクしてた。 そう言われて、ツナは少し思考が停止したが、その後色々な事が一変に頭の中をぐるぐるしだした。 「お、お兄ちゃん子って…!」 「久しぶりに会うんだし、もっと甘えていいんだぜ?」 ぐっと、言葉を飲み込み、一端少し俯くと、ツナはそうっと、ディーノの方に足を踏み出した。 最初はポスンと頭を胸にぶつける程度だったが、ディーノが後頭部を撫でてやり、更に自分の胸に埋もれさせると、 ツナは漸く肩の力を抜いて、背中に手を伸ばした。 よしよしと、髪を撫でてやる。本当は腰に回した手にもっと力を込めてやりたいがー。 「これだけでいいのか?」 「じゅ、じゅうぶんです…」 「ーじゃあ今度はツナ、甘えさせて」 はー? ポッカリと唇を開けたと同時に、ディーノに手を引かれ、縁側に座らされる。 素足を外に投げ出すと、石段のひんやりとした感触が足の裏から伝わった。 気持ちいいな、などと思っていると、今度は膝の上に、何かが乗ったのが伝わってきた。 乗ったのはディーノの頭で、つまりこの状況は膝枕、であった。 「わ!な、何してんですか!」 「ケチケチすんなって」 「だ、オレの膝枕なんて気持ちくない…!」 「すげー気持ちいい」 「ま、枕、どっかにありますよね、眠いんなら持ってきますから」 だから勘弁してくださいと、言おうとしたのだが、ディーノはそれを許さなかった。 だーめ、と、ツナの手首を掴むと、ツナを引き止めた。 やんわり、と掴まれたはずの手首だが、物凄い力が秘められているらしく、ツナが動くことを許さない。 はあ、と一つ息を吐いて諦めると、ディーノは漸く手を離した。 綺麗な彼の一部が、自分の膝の上にある。 柔らかそうな髪の毛が、自分の膝の上にある。 少し揺れる度に、夕陽で煌くディーノの髪を、そうっと触れて、撫でてみる。 やはり細く、柔らかい。 (不思議だ…) いつも頼っている。いつも、自分の兄貴分であるディーノに、膝枕。 まるで子供のよう。面白い、と思いながらディーノに触れている。 撫でていたツナの手を、デイーノが触れ、軽く握る。 軽く、のはずなのに、熱が込められているような気がして、ツナは少し、胸を鳴らした。 「-オレと会えなくて、寂しかった?」 「…寂しかったです」 何を言わせるのだ、と、ツナは少し照れながら答える。 ツナに会えない日々。それはディーノにとってもたまらなく辛いものだったし、会いたかった。 理由としては、忙しいのも確かだった。だが、「寂しい」この言葉が聞きたいが為にーそしてあわよくば、離れている間に、 ツナに自分と同じような感情が芽生えてくれないかという企みも無い訳ではなかった。 「マジで?」 「ほんとです」 「じゃあツナ、チューして」 「な、なに言ってんですか…!」 もうディーノさんは冗談ばかりだと、ツナはとうとうむくれてプイっとそっぽそ向いてしまった。 それを見て、ディーノはうっすらと笑った。 膝枕はしてくれたわけだし。 今の現状に満足はしないが、まあ、-悪くは無い。 そうして少し、目を瞑ってみた。目を瞑っている間も、ツナはディーノの髪を優しく撫でている。 それが気持ちよくて、少しうとうととしてしまう。 ディーノが目を瞑ると、長い睫毛が目立ち、ツナはそれにすら、ほうっと見惚れてしまった。 夜になれば眠って、朝になれば目を覚まして。 一日はなんと、短いのだろう。 もっとーもっと側に居られればいいのに。 それでも。 「…おかえりなさい」 また会えて、嬉しい。 甘えてるって思われるかもしれないけれど。 まだ、この手を離さないで居て欲しい。遠く遠く、見えなくなるなんて寂しい。 本当は、自分など手の届かない人なのだ。 1日はなんて短い。 別れて、今度会う時まで、この関係を保っていられるのだろうか。 全てが薄れていたらー今度こそ、電話だけの絆になっていてしまったら。 「ディーノさん、帰って欲しくない」 ディーノは薄っすらと瞳を開け、長い腕を伸ばし、ツナの下睫毛に触れる。 彼の指は、優しくそこを撫でるものだから、ツナはじんわりときてしまって、 ー勿論涙など出ていなかったのにー本当に泣いてしまいそうになった。 「…帰したくない」 ツナは、よくわからなかった。帰るのはディーノの方だ。帰したくないのは、自分の方だ。 ディーノはツナの膝の上から退くと、座り込んでツナの瞳を見つめる。 くしゃりと、ツナの頭を撫でた。 少し切なげに笑う。橙の光に、包まれている。 ー絵になる。 ツナは胸を鳴らしながら、ぼんやりとそんなことを思っていた。 イタリアに帰ればまた、その風景をバックに、彼は絵になるのだろう。 帰ってしまう。その事実が、ツナの胸を悲しくさせていた。 「帰るの、ディーノさんの方なのに」 ツナが少し笑うと、ディーノもまた、口許を上げた。 今はまだ、甘えていていいのだろうか。 ディーノが外に向かって足を投げ出すと、ツナは距離を詰めて、ディーノの膝に頭を乗せた。 少し、照れながら。 そうっと瞳を閉じれば、涙が滲んでくる。日が落ちてしまうのが、怖かった。 微かに上から聞こえた「だたいま」の声が、その不安を、和らげてくれる。 大丈夫。また、会える。 |
「また来年、ここ、来ような」
み た い な…!
鍍金さんから頂いた素敵なディノツナイラストに文を付けさせていただきました!
色々と鍍金さんが元ネタであります…!(チューしてってセリフ、下絵にもあったそうで…!ドキン…!)
次の約束をさらっとしてくれるディーノさんに、ツナはやっぱり安心しているし、
(カプチーノという歌でそういう歌詞があったナァー!凄く好きな曲…)
ツナが「情けないな」と思いつつ出してしまう寂しさとかを、ディーノさんはとても嬉しく思っている。
嬉しく思っているだけじゃなく、正直ディーノさんはツナを抱いてやりてー!とか色々思ってるんだけどネ!(この野獣が!好きだ!)
小説へ戻る