俺のような根無し草は、ペットは飼えない。
実を言うと、恋人だって同じだと思ってる。

ろくに会えやしないし。

それに誰かがそこに踏み込むことで、それに囚われたり縛られたりするのは、とてもじゃないが嫌だった。

それなのに、俺は一体、どうしたことだろう。

今いる場所が、「恋人」の胸の中だとは、笑ってしまう。








ー今、こうして大佐の胸の中に居ても問題は無いという、確証が欲しい。










「…こういうのが好きだな、大佐」

大佐の胸の中で、窒息しそうな声をだすと、大佐がフっと笑ったのが分かった。
その笑い方はやめろと、いつも思う。
見透かされたような感じがするからだ。

「君がしてほしそうだったからね」

・・・アホか。
どうなんだ、この自惚れぶりは。

してねーよ、と言うつもりだったのに、出そうで出なかった。
それはつまり、心の奥底にそういう気持ちが無かったとも言えない。
いや、そんなものはきっと、ほんの少しだけれど。
でも、だが、つまり。
一応、図星という事になる。

それでもそんな事は、意地でも認めたくない俺は、大佐の腕をつねってみたり、何とかこの場所から抜け出したい様子を見せた。
認めたくないのではなくて、認めてはいけなかった。
だって今日で、俺と大佐は別れるんだから。



ごめん、大佐。

俺は今日は、そういうんじゃないんだ。

終わらせたいんだよ。もう、そういうのはやめたいんだ。

いつも、言おうと思っていた。

でも言えなかっただけで、だから、そういう雰囲気を出して欲しい。

せめてこの腕をといてくれ。

このぬくもりを感じさせなくなるくらいの距離は、欲しい。



「大佐、話、あんだけど」

「何だい?」

少し腕の力を緩めたと思ったら、今度は耳にキスを落としてきた。
…勘弁しろ。
頼むから、触らないで、ただ話を聞いてほしい。

それなのに、音を立てて、今度は首筋に唇を当ててくる。
構ってられるか。


「…もう、」



『やめたい、こういうのは』

言ってしまえば、もう終わりで、本当に、もう。
このぬくもりを感じる事は、二度と。

『終わりたい』


二度と、ない。



ズクンと音がしたかと思うと、目に何か、込み上げてくるものがあった。
これは、涙が出る感覚に似てる。
…似てる…っつーか。

…まずかった。
危うく、涙が出そうになった。


ー終わりを告げる言葉は、言えない。

そもそも別れを切り出したかった理由が、「嫌いになった」類のものではなかったから。

まだ、恋人になったばかりなのに。
『ろくに会えない』辛さが不安を呼び、心を傷みつけた。
それに、それの事でばかり苦しむのも、嫌だった。

根無し草の自分が恋人など持てば、それに囚われて、縛られてしまう事が分かっていた。
それなのに、恋人が出来てしまって。

ーこんな気持ちで、恋人の椅子に座っていて良いものか、わからなかった。

それになんだか。

悪い事をしているような、そんな気もして。


色々な事がグチャグチャとしていて、もう全部やめたくなった。
また、元に戻りたいと、そう思った。

元の、何も無かった頃に。



「…あ」

駄目だ。まだ。
大佐は黙って聞いているけれど、いつまで待たれても、言えないだろう。

「…何でもない」






今、言えなくたっていい。問題ない。
そうだ。
いつか、言えばいい。

いつか、自然と、終わる時がくる。

それまでは、このままでも、いい。




いつか、離れる時がくる。






きっと、いつか。

















ーこんなに、好きなのに
















END




つ、つまり「いつか言えばいいんだから、今は、ロイとこうしてイチャコラしててもイインダー」みたいな、それが確証になっているわけでして。
実際は言わないと分かっていても、とりあえずの確証。


ワカランデスネ…ショボリ。





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