君の世界から俺が居なくなるまで

  どうか その瞬間までは側に居させてください





  君が俺の世界から居なくなるまで

  せめて その瞬間までは側に居させて欲しい






  君の世界から彼が居なくなるとき

  必ず その瞬間からは側に居て支えになるから
















  『決意』


















  力なく溢れた君の言葉

  それに対して何も言えない自分がくやしかった



  「そういえばディーノさんは何時まで日本にいるんですか?」



  俺の対応を気にしてかツナは直ぐにさっきの話とは関係ない話題をふってきた
  そんなツナの優しさに余計に自分の不甲斐なさを恨んだ
  無理して作られる笑顔が痛い

  けど、そんな心情を表に出してしまえばツナの折角の気遣いが無駄になってしまう
  俺はツナに笑いかけるとその頭を撫でた


  「なんだよ?そんなに早く俺に帰って欲しいのか?」

  「ち!違いますっ!!!」


  俺の冗談交じりの言葉をツナは大声で否定した
  そうして俯き加減に小さい声で呟く


  「その、ディーノさんが居なくなるの…寂しいな…って思ったから…」


  恥ずかしそうに、それでも俺に伝えようと必死で声にされた言葉
  その言葉に俺は嬉しさを隠せない

  俺はツナを思わず抱きしめた


  「うわっっ!!ちょ、ディーノさん!!??」


  いきなりの行動にツナは驚いてはいたがそれほど抵抗がある訳ではない


  「ったく可愛いな〜ツナは。」

  「可愛いって―――!」


  真っ赤に染まった顔が愛しい
  こんな風に思うように何時からだったのだろう
  気づけば思うようになっていた

  ツナの側にいてやりたい
  ツナの為に何かしてやりたい

  それは多分ツナに出会った皆がそうなんだろう

  特にあのシャマルが男を治療したって聞いた時は驚いた
  一番近くにいるリボーンも仕事のうちだけではなく気にかけてるみたいだしな


  それがツナのボンゴレ10代目としての資質なのかもしれない


  ツナなら良いボスになるだろう
  それをサポートしていくのは楽しみな事だ

  けど、同時にチクリと胸に痛みが走るのも確かだ

  何故なら俺は知っている
  ツナの中には大事な人が居る事を

  抱きしめたまま何も言わなくなった俺に不安を覚えたのか
  ツナが心配そうに俺の顔を覗き込んできた


  「ディーノさん…?」


  見上げてくる大きな瞳
  その瞳が悲しみに染まる日を見たくないと思うのに



  ―――ピンポーン




  「ツナ〜〜!」

  「山本!!」


  チャイムが鳴って聞こえた声に直ぐに反応した
  見上げていた瞳が俺を映さなくなる

  俺を突き放したのにも気づかず
  ツナは自室の扉を開け駆けて行った
  そんな後姿を見るのはコレで何度目だろうか

  君の第一優先は彼

  その事に気づくのにそう時間は掛からなかった
  ツナが何時も見ている視線の先には絶対彼がいたから

  さっきツナにされた質問を思い出す


  「ディーノさんはマフィアになる前に巻き込みたくない人は居なかったんですか?」


  不安げに呟かれた言葉
  その時に誰のことを思っていたのかなんて聞かなくても分かる事で

  君の一番の恐怖

  それが垣間見えた瞬間だった
  だけど君は既に決心しているようにも見えた

  ツナの後を追って階段を下りていくとソコには楽しそうに笑う二人の姿があった

  何よりも幸せそうな笑顔
  ツナのその顔が見れるのは彼の隣に居る時だけだ





  分かっていても俺はツナにどうしても言えなかった


  『お前の好きなように生きていいんだ』


  とは。





  そんな自由が許される訳がない事を知っている
  先に経験してしまっている

  大切な人は消えていく

  いつ命が消えてもおかしくない世界
  その世界に身を投じたくないともがいた所で選択権なんて無かった


  君の選択した決心に俺は口を出せない



  だから、せめて…






  ギュッと握りこぶしを作って俺は彼らの前へと歩いていった
  ツナは近づいている事にも気づかなかったようで
  彼が俺にお辞儀をした時にやっとその目に俺を映した


  「ツナそんな所で立ち話もなんだろ?」

  「あ!…ご、ごめんね山本。何か冷たいものでも淹れるよ、上がって待ってて。」


  パタパタと慌しく台所にかけていく
  その姿まで可愛いと思うのは、もうすっかり捕らわれている証拠だろうか

  残された山本と俺は目を見合わせた


  「んじゃ、ま。お邪魔します。」

  「どうぞ、って。別に俺の家じゃねーけどな。」


  言いながら笑いを溢し
  ツナの部屋に続く階段を上がっていく


  「そう言えば、お前よくツナの家に来るよな。
  ずっと前からこうなのか?」


  俺がココに来てから何度こうして尋ねてくる姿を見かけたか分からない
  何時もならあの悪童スモーキンボムも一緒だが今日は居ないらしい

  俺の言葉に山本は少し考えるようにして口を開いた


  「何時まで時間があるか分からないから、会える時には会っておこうと思って。」


  その返事に俺は目を見開いた
  驚いた顔をした俺に山本は笑って言葉を続ける


  「俺が知ってる事は内緒にしていて下さいね。」


  言いながら悪戯っぽく人差し指を口元に持っていく
  その瞳にもツナと同じように決心の色が浮かんでいた

  きっと彼は何もかも知っているんだろう

  ツナがマフィアの10代目になる事も
  俺やリボーンもマフィアだって事も

  そして



  ツナが自分を連れて行かないって事も…



  だからこそ知らないふりをして
  この日常をその時がくるまで繰り返して


  「お前ら…バカだろ…」

  「俺もそう思います」


  やけに明るく言われる言葉
  その中に揺るがない意思が見えた


  ツナが惚れる訳だ


  連れてこれば良い部下になるだろう
  だがそれをツナは望んでいない

  それはコイツも分かっている

  俺は何も言えなくなって口を噤んだ
  お互いに言葉もなく沈黙が流れようとした瞬間だ
  タイミングよくドアが開いた


  「オレンジジュースで良かった?色々あったんだけど聞くの忘れちゃって…」



  慌てていたのか少しお盆にオレンジジュースが零れている
  俺はその姿に笑みを溢し
  腰を下ろしていた椅子から立ち上がった

  お盆に載せられたジュースを手にとってツナが入ってきたドアから出る


  「ちょっと散歩してくるわ〜」

  「え!?」


  ドア越しにツナの驚いた声が聞こえる
  その声に後ろ髪を引かれつつ俺は足を進めていく

  残りどれくらいあるか分からない時間
  それくらい邪魔してやりたくないしな…

  痛む心には蓋をすることにした



  何時か必ず訪れるその時まで

  その時には必ず側にいて支えになってやるから






  だけど、どうかその時がもう少し先でありますように…









  なんて綺麗事かな









  
  END





わー!!!水稀ちゃんが凄く素敵な小説を書いてくれました!vv
こ、この終わり方とか本当大好きなのですが…!!
山ツナでありながら、ディーノさんも絡んでおります〜!!vvv
本当、よく考えると(山本と、ツナ)二人の結末が切ないのですけど、でも、何だか二人とも、
離れてても繋がっている感がありますよね…!!あとあとディーノさん!ディーノさん!
んもーかっこいい…!!素敵…!!大人の男…!!
水稀ちゃん、素敵な小説を本当にありがとうございました!




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