子供の心を抑えて、大人ぶって。 もう今更戻れない。 『弱音を吐いてはいけない』 『甘えてはいけない』 『泣いてはいけない』 エトセトラ、エトセトラ・・・ 常に自分の心の中にある、決め事。 禁忌を犯し、弟を持っていかれ、自分の手足までも。 「俺がしっかりしなければいけない」と思い始めたのはいつの頃からだったか。 元々、弟がいるのだからそういった責任感は強かったが、母を亡くして、それは更に強くなった。 そしてその後、弟の肉体を持っていかれたら、更に。 「子供でいてはいけない」という、自分の中での強い思い。 だがある男の前では、どうしてもそれが少し、ほんの少しだが緩むような気がする。 「・・・大佐、やめろよいい加減」 エドの三つ編みを勝手に解くと、金色の細い髪に指を通した。 ロイはさっきからそればかりやっている。 「ついね」 君の髪は気持ちがいいから、と、また手を入れた。 根元の方から指を通され、まるで。 まるで、撫でられているよう。 いつもいつも、知らない間に甘えさせてくれているような、そんな気がする。 決して露骨に甘えさせるのではなく、「子供扱いはされたくない」という自分の気持ちを見透かしているかのように、いつも、自然に。 自分に、分からないように。 そういう時、ロイは本当に「大人」なのだと実感する。 優しく撫でられるのが心地よくて、目を瞑りそうになった時、今度は頬に触れられた。 「来月はこっちにこれそうかね?」 「無理っぽい。査定が近いの忘れてた」 解かれた髪を結い直しながら答えると、ロイの顔が不満そうに訴えてくる。 こういうところは、子供みたいだ。 ぎゅっと腰に手を回され、抱きしめられる。 抵抗はしないが、エドは、自分からは手を回さずに、一切求める様子は見せない。 「もう行かないといけないんだけど」 「・・・来月も会えないのだったら今もう少し補給させてくれても、いいと思うんだがね」 ロイの腕は、絡みついて離れない。 ますます強くなる。 どっちが子供だか、わからないと思った。 だが、こういうロイを見るのは安心する。 自分も少しは、良いのではないかという気分になってくる。 少し、求めてみても。 駄々をこねてみても。 良いのではないだろうか。 ー抑え切れない。 「…俺も」 補給、したい。 そう言って背中に腕を回し、胸に身体を預けると、ロイの腕の力が更に強まった。 珍しく素直なエドの言葉に、喜びを隠し切れない様子だ。 エドがやんわり腕を抜け出そうとしても、それが叶わない。 「やっぱり離せ!」 「断る」 即答され、エドは前言撤回と心の中で呟いた。 <ただの駄々こねてるガキそのものじゃねぇか…!> 大人と思っていたのに。 こっちからはもう、子供じみた求め方はしまいと思いつつも、しかし5分後にはまた、抱きしめ返してしまった。 子供の心を抑えて、大人ぶってみても。 抑えきれない。 それは あなたへのー |