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『ロイ・マスタング大佐は何十人もの女性をたらしこんでいる』


『ロイ・マスタング大佐は過去何百人もの女性を泣かしてきた』


など、など。

ロイに対する噂は山ほどあって、エドは聞く度に、コイツと恋仲になるのは間違っていた、と思っていたものだ。
それは大概、女関連の噂だったからだ。
しかし噂は噂。少し大げさに、尾ヒレがついただけだろう。
…いや、ロイの場合、真実かも分からない噂がかなりあったが。

それでも、目を瞑ってきたつもりだ。


だが今回のはどうだろう。








『ロイ・マスタング大佐には 隠し子が いる』




ああどうして、こんな噂を耳にしてしまったのだろう。












***






噂を聞いてから、暫く会わないでいようとも思ったが、やはり気になってしまって。
すぐに、司令部へ来てしまった自分が憎い。

「兄さん、大佐に用事あるんでしょ?僕、書庫見てるけどいい?」

「…ああ。ごめんな」

気を遣ってくれた弟に謝罪とお礼を言うと、エドは一人でロイの執務室へ向かった。
鼓動が、段々早くなるのを感じる。

ズン、と威圧感のある扉の前に立つと、ますます、鼓動がおかしくなる。
すうっと息を吸い込んで、扉を鳴らした。
入室許可の声にも、軽く心臓を震わせて。

カチャリと扉を開けると、真っ直ぐに見えた。



ーロイ・マスタング。



「1週間前、以来だな。こんなに早く君に会えるとは」



口元を上げて、笑みを浮かべると、エドも余裕で微笑み返した。
ああそうだ。
こんなに早く、ロイに会うつもりなどなかった。

だが、あの噂を聞いてしまったからー



「…ちょっと、な」

「何か気になる情報でも?」


石、ではなくロイの情報だとも言えない。
エドは黙りこむと、ロイが席から立った。
コツコツ、とエドの方に近寄ってくる。

ソファには座らず、立ったまま寄りかかると、そのままエドの方を見て微笑む。

ーこの笑い方。

笑っているだけで、何も言おうとしない。

ー腹が立つ。


<何か言えっつーの…>


ギロっとロイを睨むと、仕方なくエドから口を開いた。
いきなり核心に触れるのもマズイのだろうか。
でもあまり、まわりくどいやり方もしたくなかった。


「…大佐、子供欲しい?」

その質問をした途端、ロイが目を丸くし、その後、何を勘違いしたのか嬉しそうに笑った。

「私と結婚してくれる気にでもなったのかね?」

「馬鹿言ってんな!いいから答えろ」

「…別にこれといっては」


ーこれは、つまり。
既に子供が居るから、「もういらない」という事、なのだろうか。


「君はどうなんだ?」

「…別に。オレの事はいいんだよ!大佐の噂の真相…」


「-噂…?」

モゴっと口を塞いだ時にはもう遅かった。
ロイは怪しげな笑みを浮かべている。
だがまだ、エドは単刀直入に聞くか迷っていた。

ロイから弁解してくれれば、まだこっちもやりようがあるのに…と思ったが、ロイはどうやらその気はないらしい。

それは何故か。


ーあまりにもバカバカすぎるから?

ーそれとも 真実だからー?

ロイの耳に噂が届いていない、という可能性もある。



もう、肯定でなければどうでも良い…。



「…大佐、最近流れてる噂、知ってる?」

「噂…?多すぎて分からないな」

ああそうかい、と一瞬呆れてしまった。
エドが言いづらそうにしていると、ロイはソファに腰掛け、エドの方に柔らかい視線を向けた。
口を開け、閉め、開け、を繰り返し、金魚のようになっているエドを、ロイは静かに笑った。

「…鋼の。何が聞きたい?」

「…隠し子」


「-なに?」

「あんたに隠し子がいるって噂、知らない?」


「-は?」


ロイが気の抜けた顔をしていると、コンコン、という音と共に扉が開かれた。

「大佐ー、至急の書類なんで、サイン…。おー!大将、珍しいな」

1週間前に来たばかりなのに!と笑っているのはハボック少尉だ。
ぐしゃぐしゃとエドの頭をかきまぜるハボックの手から、ロイは書類を乱暴に取った。

「…少尉は知らねぇ?大佐の噂」

「大佐の噂なんて山ほどあるぜ?」

ーそれは知っている。
が、ハボックからまた改めて言われると、いい加減うんざりしてくる。

「…大佐の隠し子の話なんだけど」

そう口に出すと、ハボックは目を丸くした。
そしてすぐ後、肩を震わせて笑い出した。
チラっとロイを横目で見ると、ロイも何の事だか分からない、というように首を傾げた。


「おい、ハボック!どういう事だ?」

「だ、だって大佐の隠し子って…っ」

「知ってんの?少尉」

「ああ、知ってるぜ!世間じゃ結構有名な噂だからな。大将、教えてやろうか。大佐の子供の名前!」

「私には子供などいない!」

ロイの怒声に、「まぁまぁ」と両手を前に出すと、ハボックはコホンと席払いした。
そうして、エドの方を見て、ニンマリと笑った。




「大佐の子供の名前は、エルリック・エドワードだ」




「--お、オレ?」


何がなんだかわからないエドとは違い、ロイはもう理解しているようだった。
頭がグルグルする。

ロイが父親で、アルが弟で、それからええと…

エドが頭を抱えているのを見かねて、ロイがポンと肩を叩く。

「…君が誘拐された事件があっただろう。爆弾テロと連続誘拐事件の…」

「…ああ」

あの時も確か、ロイの子供だと勘違いされて誘拐されたのだ。
とんだとばっちりを受けた。

ーと、ここまで考えて、ようやく分かった。
事の発端はあの、誘拐事件だ。

「そっから広まったって…事か?」

「まぁつまり、そうなるな」

正解、とばかりにハボックも笑って頷いている。
一気に、肩の力が抜けた…。
あんなに鼓動をおかしくさせ、あんなに聞くのを躊躇っていた内容だったのに。

馬鹿々しくなり、それと同時にあんなに気にしていた自分が恥ずかしくなった。
ソファを立つと、扉の方に向かった。

「鋼の?」

「もう行く」

「せっかく寄ったのなら、もう少しゆっくりしていきたまえ」

「~っ!忙しいんだよオレは!大佐はデートでもしてろ!」


恐ろしい勢いで扉を開けると、バタバタと駆けて行ってしまった。
ロイも急いでそれを追いかける。
扉を開けると、ハボックに向かって言った。

「中尉には適当に言っておけ!」

「…俺が怒られるんスけど」

「気にするな。それと、もう一つ。もう少ししたら適当な噂をばらまいておけ!」


ハボックの返事を聞かぬ内に、ロイは部屋から出て行った。
まさか自分の噂で、エドがここまで来るとは思っていなかったのだろう。
エドを自分の下に誘き寄せるエサを、噂にしようというのか。



「大将が気になって、でも怒らずに大佐の所に来る噂を考えろってか…」


無理だ。
ハボックは誰もいない部屋で、ボソリと呟いた。








おわり。








ナンナノこの終わり方…




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