少し前、さんの気を引きたくて、気持ちを確かめたくて、奈瀬に命じられるままにやった、カケヒキごっこ。
俺は奈瀬と、怪しすぎるくらいに仲良くした。
結果は大成功で、さんは面白いぐらいにかかってくれた。

でも、実はさんも、やっていたのだ。カケヒキを。
俺と奈瀬がやっていた事を、さんは伊角さんとやっていた。
そんな事を知らなかった俺は、焦って焦って、伊角さんはさんを好きで、さんも伊角さんを好きで、


ー二人はもしかして。


と、悪い方に考えてしまったのだ。
本当にあの時は、生きた心地がしなかった。
さんを盗られる。そう思ったから。


結局二人がワザと、やっているんだという事は分かったのだが。

最近、また悪い予感がする。

伊角さんが、さんと異常に仲が良い気がするのは、気のせいだろうか。






続・カケヒキごっこ。






「和谷君、どしたの?」

怖い顔してるよ、とさんに言われ、俺はやっと自覚した。
眉間に皺が寄っている事が、最近多いらしい。
それは奈瀬にも、伊角さんにも指摘された事だった。

だって、仕方ない。悩みがあると、すぐに顔に出てしまうんだから。
しかも、さん関連の悩みだ。
つまり俺にとって、碁と並んで、最大級クラスの悩みの種類だと言える。


「悩みでもあるの?和谷君、すぐ顔に出るから分かる」

はは。やっぱり見透かされてた。
さん、伊角さんに狙われてるって事。俺が言わないと、分からないんだろうな。

後頭部に手をやると、それとなく聞いてみた。

さん、さ。…い、伊角さんとー…」

なんて聞くつもりなんだろう、俺は。
伊角さんに変な事、言われてない?とか?
ー…変なのは俺だと言われそうだ。

伊角さんと最近、仲いいね。とか?

…わからん。
前から仲は良かった、と思う。でも、今の方が、二人の距離感は近づいてる気がする。
そしてそれはきっと、

俺の気のせいではない。


「伊角君、彼女できたんだって?和谷君、見た事ある?」

「え?」

彼女?伊角さんに?え?マジで?

思わず両手を高々と挙げて、バンザイをしそうになった。
だって、嬉しいじゃないか。
それが本当なら、心配の種は無くなるんだから。

「ま、マジで?さんが聞いたの?」

「うん?…え?和谷君、知らなかった?」

さんは、俺と伊角さんを凄く仲が良いと思ってる。
いや実際、そうだけど。
その俺が知らないなんて、と不思議そうに視線を向けていた。


「−…全然、知らなかった。へえ、そうなんだ」


めでたい……!!


心の中で叫びつつ、俺は普通を装って返事をする。
歓喜のオーラが溢れ出ていたのか、さんも俺を見てニコニコしだした。
やっぱり俺は顔に出やすいタイプらしい。

「和谷君も嬉しいんだね。ほんと、仲良しだよね。二人共」

さんも、嬉しそう。
それが、俺の心を一層晴れやかなものにした。
此処でもし、ちょっとでも残念だ、という態度に出られていたら、それはさんにそういう想いがあった、という事になる。
だがそんな様子はこれっぽっちも見えない。

良かった。さんも、伊角さんを何とも思っていなかったんだ。

伊角さんも、無事彼女ができて。
これで、悩みの種は消えた。

ああ、良かった。





などと、浮かれて油断していた俺が、甘かった。








和谷、また苦悩の予感。






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