今日こそは言おう、と決めていた。
いつもいつも、会う機会も話している時間もあるのに、中々切り出せないでいたから。
バレンタインのお返し。
ーもうすぐホワイトデーだ。
今日こそ、今日こそ。
「え?ホワイトデー?」
俺が覚悟を決めて言ったら、はあからさまに、クエスチョンマークを表情に出した。
俺からお返し、貰えると思ってなかったのか?
何だ、以外と謙虚な奴…
そう思っていると、まるっきし見当違いな答えがの口から返ってきた。
「え、なんで?」
…なんで?なんでって、お前…
そりゃ、がバレンタインにチョコ、くれたからそのお返しだろ?
それに。
それに…
「なんでって、だから…」
「和谷、私の事好きなの?」
「−はぁ!!?なっ…おま…っ!」
のあまりの爆弾発言に、思わずどもってしまった。
おいおい…そういう事、俺本人の前で言うか?
これで俺が、のこと何とも想っていないんだったら、笑い飛ばせたりできる。
だが、俺はそうじゃない。
図星、なのだ。
が好きだった。
笑い飛ばせるほど、器用な人間でもない。
ポーカーフェイスは苦手だ。
だがいくら苦手でも、感づかれたりしたくない。
そりゃ、が少しでも俺の事、想ってる素振りがあるのなら、それなら感づかれてもいいかも…しれないけど。
でもどうも、は俺のこと、友達以上には見ていないだろう。
「そんな訳ないだろ!お前が!バレンタインくれたから、そのお返しだっつーの」
「え?私、和谷にあげたっけ」
ーは…?
こいつは何を言っているんだ…。
俺は一瞬にして、石になったように固まってしまった。
だって。
あげたっけ、ってお前…
残酷な。
バレンタイン、確かに貰った。
手作りとか、高級なチョコレートとか、そういうものじゃなくて、500円あれば買えるようなヤツだったらしいが。
それでもやっぱり、好きな奴から貰えたって事で、俺はすっげー喜んだ。
それにも関わらず。
「あげたっけ」とは何事だ…。
もしかして義理の中の義理だったのか。
ああ、どうすんだ。暫く眠れそうにない…
どんよりと落ち込んでいると、の笑い声が聞こえた。
「う、うそうそっ!あはは、和谷、ごめん」
覚えてるに決まってるよー、と、無邪気に笑う。
それを聞いて、俺は単純にもホっとしてしまい、起こる気力も失せた。
「で?ホワイトデー、何がいいんだよ?」
再び聞くと、は顎に手を当てて、ウーン、と考え込んだ。
「そうだなぁ。今特別欲しいって物、無いんだよね」
「何かあるだろ?」
「何か、ね…。うーん、無い」
ハッキリ答えられた。
無いって、あのなぁ…。
こっちは勇気出して聞いてんだぞ?
「…何でもいいから、一個ぐらい言え」
俺が溜め息を吐きながら、に返答を求めると、はポン!と何か閃いたように手を叩いた。
「あ!あった!駅ビルに売ってた指輪!可愛いけど安いの」
「ああ、いいじゃん。じゃあそれでいいよな?」
指輪。
その答えに、俺は内心、嬉しさで一杯だった。
…普通、嫌いな奴から指輪、贈られたいとは思わないよな?
つまり、もそれなりに俺の事ー…
とか、そんな事を考えていた真っ最中だった。
の声が、俺の期待を見事にブチ壊してくれた。
「あ!駄目だ!あの指輪、期間限定のヤツだった」
「…いつまで?」
「2月一杯」
終わってる…。
もうコイツに期待するのは止めよう…。
ガックリと肩を落とした。
「…私に聞かないで、和谷が選んでよ。そっちのが嬉しいよ」
「…わかった」
…マジで?
もう期待するのは、止めようとか思ってたのに。
また気分が上昇してきた。
「白いマシュマロ以外なら、何でも嬉しいから」
ー・・・?
白い、マシュマロ?
その時は意味が分からなくて、「おう」とだけ、返事をしておいた。
後でコッソリ、ホワイトデーに白いマシュマロを贈るという意味を、友人に聞いたら。
『ずっと 友達』
つまり、振り文句。
それでまた、俺がまた期待を持ってしまった事は言うまでもない。
どうやらまだまだ、の言葉一つに振り回される日々が続きそうだと、そう予感した。
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