雲一つない澄みきった青空の中、桜色の花弁がヒラヒラと、美しく舞っては、地面に落ちた。
時折強く風が吹き、桜吹雪を起こしたが、それでも、絶好の卒業式日和。
今日で、中学校生活、全てが終わる。





ずっと好きでいいですか







校舎付近で、生徒達の声ばかりが響く。此処にいる人間達の、ほとんどが、「卒業式」の放つ雰囲気に支配されていた。
とても穏やかで、けれども情熱的に、生徒達は泣いたり、笑ったり、実に忙しそうだ。
そんな中、一際、忙しそうな連中が居た。
もみくちゃに揉まれて、それでも笑顔を絶やさなかったのは、山本武である。
女子達を寄せ付けずに、しかし強引な押しにやられ、少し不機嫌な顔をしているのは、獄寺隼人だ。

「お、お疲れ…」
「ただいま。あー、駄目だ、すげー疲れた。早く家帰って寝てー」

あまりの凄さに、ツナが二人をジロジロ見る。
獄寺は拒みに拒んでいたから、さほど酷い様子でもないのだが、山本は何から何までOKしていたらしく、
相当な目にあっていた。

「山本ー…あの、ブレザーは…」

まさか、と思った。
ボタンを欲しがるのは一般的で、それは仕方ないとは思うのだが、彼の場合、何故かブレザーまで無い。
ツナの嫌な予感は、山本のワイシャツのボタンが全てもぎ取られている様子を見て、強まった。

「あー、いや、ほら。もう最後だし。いらねーだろ?」
「だ、だからってあげちゃったの」
「ん。オレのブレザーなんて、あってもどうしようもねえのになー」

いやいやオレは物凄く物凄く欲しいですけど。なんて絶対に言えない。(ボタンでさえも言えない)
案の定の結果に、ツナはガクリと肩を落とした。
俯いていると、山本の靴が、視界に入ってくる。
ああ、彼は靴紐さえも失っている…。

「10代目、疲れました?」
「え?あ、ううん。獄寺君の方が疲れたんじゃないの?」
「獄寺も凄かったよな。でもお前、全然譲らないだろ。もうちょっと優しくしてやれよ」
「っせーな!どうでもいいだろうが!」

おもむろに威嚇し、睨みをきかせ。そこが良いと言う女子には黄色い声ばかりを張り上げられたが、
それでもこの最後の日にでさえ、獄寺はツナ以外に笑いかけることは無かった。
まるで、オレの全ては10代目の物です、とでも言わんばかりだった。
しかし、懲りずに次から次へと、女子はやってくる。
邪険にするとツナがオロオロしたような瞳で見つめてくる為、獄寺は仕方なしに、
導かれるままに体育館裏へと足を向けた。

「ツナ、ちょっと教室行かね?」

今のうちに。とでも言うように、山本はツナの手を取った。






「あーあ、もう最後か」

教室の窓から、外の景色を見る。これで、最後の景色だ。
窓を開けると、清々しい、春特有の空気の匂いがした。
そよそよ、とゆるやかだった風に吹かれていると、急にビュっと、音がした。
風が強くなり、桜がヒラリと、数枚、教室に侵入した。

「風、強い…」
「ツナ、悪い…もうちょっと中、入って」
「は?」
「知り合い、オレのこと探してるっぽいから」

野球部の人達だろうか、と、そうっと窓から見てみるが、それらしき人は見つからない。
もう少し、身を乗り出してみると、数人の女子が、キョロリキョロリと辺りを見回しているのに気がついた。
「やまもと」という単語、「たけし」という単語が、微かに聞えた瞬間だった。
女子達と向かい合わせの、野球部の男が、上を向いてこちらを指差したのだ。

「おーい!ツナー!!山本、知らねえー?」

大声を張り上げた男に、ツナの肩が揺れた。
また、突風が吹き、ツナは目を瞑った。その直後、アタフタとした様子で、隣にしゃがんでいる山本を見た。

「や、山本…っごめん、見つかったけどっ」
「知らないって言って」
「分かった」

知らないという言葉を出す前に、彼女達に睨まれた。
ー…読唇術でも、習っているのだろうか。それとも、女特有の、勘、というやつだろうか。
バタバタと駆け出し、校舎に入っていった。

「やば、やばい山本、きちゃう。ごめん」
「マジで?」
「なんで逃げてるの?」
「ん、疲れたから」

基本的に、とても優しいが、ドライな部分もあるのだな、と、この3年間、山本を見てきて分かった。
ツナも山本と同じようにしゃがみこむ。
桜の花弁のついたツナの髪を、山本が自然に、手で掬った。
そのまま、山本の方に寄ると、山本が、ふわりと笑った。もう一回、ツナの髪に口付けると、頬を撫でる。
こっちを向いて、という合図だった。
もう、何度もしているから分かる。
一端、視線を合わせて目を細めると、そのまま唇を寄せた。

「−…ま、った!山本、凄い、音」

ダダダダダと、階段を駆け上がる音がする。

「うわ、早い。やべーな。…ツナ、こっち!」

片手を掴まれ、押し込められた。一瞬の事態に、何が起こったのか、把握できない。
真っ暗な世界に、頭の上にある、ほんの少しの隙間から、光が漏れた。
やっと、理解した。
ロッカーの狭い空間の中で、山本と、密着しているということ。

「山本くん!」
「武!」
「ここでしょ!」

勢い良く扉が開かれたと同時に、女の声が、閑散とした教室に響いた。
誰も居ない様子の教室に、女子達は、露骨に期待ハズレだ、という表情をした。
あの場所から見えるところは、絶対此処だと、分かっていたのだ。

「逃げられたのかなー…」
「さがそ!」
「早くしないと、帰っちゃうかも」

女子達は完璧に、山本を見つけ出すことに、楽しみを見出していた。
まだ教室内を、ウロウロとしている女子達に、ツナは、早く行ってくれ!と、ロッカー内から念を飛ばした。
この、自然と山本に抱きつくような格好を、早くどうにかして欲しいのだ。
キスをして、抱き合って。たしかに、普通の友達同士ではしないような事をしてきた。
だが、恋人同士ではない。
恋人同士がするような行為を、友達同士の自分達が、何故するようになったのか。
山本は何も言わないが、聞く勇気も、ツナにはなかった。
何故って、自分は山本を好きだったのだ。
別に、山本が自分を好いてくれなくても構わない。

絶対に叶うはずがないと思っていた恋。叶うはずもないくせに、感情だけは強く、激しくて。
もっと大人になって、他の誰かに恋をして、めでたく結婚なんてことになっても、
それでも結局、永遠に、きっと山本に片思いしているんだと思う。

無意識の内に、山本の、ボタンの無いワイシャツを握り締めていた。
それが、合図になった。
ただでさえ密着しているツナの身体を、唇を、山本は更に引き寄せた。
深くそれを合わせると、ツナを追い詰めた。

「…っ、ん…っ」

女子達がまだいたら、どうしたらいいのかわからない。
だけど、どうだっていい。
これが、最後の日かもしれない。この「卒業」を皮切りに、こういう関係は、ナシになるかもしれないのだから。
山本と、くっついていられることが、ただただ嬉しかった。

「さっき、ほんとはしたくて仕方なかった」

邪魔、入ったからさ、と小声で言う山本の言葉に、ツナは真っ赤になった。
なんでこんな言葉を吐くのか、責めてやりたいが、絶対に自分が責めれないことも、ツナは知っている。
こういうことは、恋人同士がやることで、そういうことは、好きな子に言うものだ、と言ってやりたいが、
それもまた、絶対に言えないことを、ツナは知っていた。
堪らなくなり、山本の腕を抜け出し、ロッカーから出ると、女子達はもう居ないようだった。
ホっと、安堵の息を漏らすと同時に、チャイムが鳴り響いた。
その音が、何かの終わりを意味しているような気がして、山本の方を、振り返れない。
あの腕の中に、戻りたいのだけど。
けれど山本が呼べば、また、自分の世界は、彼一色に染まるのだ。


結局、永遠の片思い。














卒業式だというのに ろ、ロッカープレイを楽しむつもりですかあなたたたち…
獄寺はごめんよ…!
タイトルあややの曲名から。この曲、歌詞が山ツナだって思ってしまったので、この話が出来上がりました。
結局ー永遠のー片思いー♪
あんまもえなくてすいませんでした。その後ということで高校設定の山ツナもいい。


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