貴方に出会わなかったら
こんなにも
誰かに焦がれることも、誰かを想うことも
こんなにも
誰かを愛することも
こんな風に
誰かを愛することも






貴方に出会うまで、俺は何も知らなかった。





ーそれは果てる事を知らない。







5 0 0 0 万 回 の キ ス









あの頃からちっとも変わらない街並みー、と、言いたいところだが、細かなところで、変化は確実に起きている。
良くツナと行った公園は残っているし、ブランコだってまだあるが、ベンチが一つ、新しい色になった。
新しい本屋や、新しい家も、ぽつり、といつの間にか出現していたり。
最大に変わったのは、ツナの家だ。
ツナの父の転勤。母はくっついていったのだ。
とは行っても、そんなに遠いところではなく、月に何度も、我が家に足を運んでいる。


見慣れた玄関。扉に手を掛けると、ガチャガチャという音が聞こえてきた。

「10代目ー!おはようございます」

中から、ひょこりと、ツナが顔を出した。
「ごめん、今行く!」と焦ったように言うツナは、制服を腕まくりし、エプロンも着用している。
もう何度も、こういう光景を見たが、何度見ても、可愛いと感じてしまう。
それは胸の奥の方に閉まってはいるものの、時々、いつの間にか吐き出しそうになる感情には、参っていた。

ワタワタと、鞄を手に駆けて来たツナは、もう片方の手に、鍵を握り締めていた。
カチャリと鍵を閉めると、歩き出す。
朝にしては温かい日差しの中で、今日も、ツナの隣に居られている。
ツナの前だと全然違うと言われた顔や態度は、でも、仕方ないのだ。
この人が、一等に大事で、自分の全てをも捧げられる、唯一人の人間なのだから。

『え!?あの部屋に越してきたの!?』

ツナが一人になってから、自分の家とは別に、獄寺は、ツナの近くに部屋を借りた。
これにはツナも驚いて、目をまん丸にしていた。
もう、ツナの家のすぐに隣にある。1分か30秒かー…とにかく、近い。

ーボス、という意味だけで、こんなにツナ至上になっている訳ではない。
心の中が、「沢田綱吉」一色なのには、違った感情も、下心だって、ある訳で。
絶対、言えないけれど。


「獄寺君、今夜、ひま?」
「………………え?」
「昨日、カレー作り過ぎちゃってさ。明日までカレーになっちゃいそうだから、手伝ってくれない?」

残飯処理。と、遠慮がちに笑って獄寺を見上げる。
夕飯に誘ってくれているのだ。獄寺の顔は、ぱあっと明るくなる。

「…い、いいんスか!?」
「獄寺君がヤじゃないなら。まだ分量とか全然上手くいかないから困る…」

分量なんて、いつまでも上手くいかないままでいい、だなんて思ってしまった。
嫌なはずが無い。
嬉しい、嬉しい!心はそう叫んでいた。
会いたくて会いたくて、どうにかなりそうな夜を過ごしてきた。
すぐ側にツナは住んでいるのだ、と、視線を向けては、溜め息ばかり。
乱れたツナを想像しては、欲望を吐き出していた。
朝になればまた、いつも通りの笑みを向ける癖に、その心ではとんでもなく、ツナを欲していた。
こうやって、側に居られるだけでも幸せなのだと、そう言い聞かせていた。
最近では特に、強く。

ー最近。
特に、ツナが「持田先輩」と話す時は、強く、自分に言い聞かせる。
高校に入ってから急激に、ツナと親しくなった人物だった。














「………なんだ、あれは」
「……あれ、って」

休み時間や、ちょっとした空き時間に、持田がツナの教室を訪れることは、珍しくない。
いつものように教室の入り口付近で話す持田とツナを、物凄い眼つきで睨んでいるのは、獄寺だ。
それも、いつもの事だった。
ドカリと腰掛けたまま、持田を殺しそうな勢いだ。

「…いつも思っていたが、あいつはー…あれは、なんなんだ」
「…や、その…オレと持田先輩、中学の頃、あまり仲良くなかったから、多分…」

心配してくれてるんじゃないかと。
と、ツナは続けるが、チラリと見た獄寺の視線は、恐すぎた。

「まあ、な…。だがそんな事、随分昔の話だろう?」

中学の、出会いたての頃こそ酷かったが、それからどんどん、二人は仲良くなったわけだ。
今は持田にしたって、ツナをシメようなど、そんな事は一欠けらでさえも考えていなかった。
ツナはツナで、良い先輩として、付き合っていた。

「でもやっぱり、心配してくれてるんだと…」

獄寺にしてみれば、確かに、その通りでもあった。
ツナと持田は、中学時代に決闘しあった仲だと聞く。
そんな相手に、大事なツナに近づけるなんて、と。
しかしツナは「大丈夫だから」と強く言い放って、獄寺を牽制していたし、あまりしつこくもできないでいた。
ただ、睨みをきかせてしまうのは、それだけではない。





間違いなく、これは、嫉妬だった。





モチダでた


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