時々無償に、彼に会いたくなる。
何なんだろう、これは。
彼は忙しいはずだし、自分も忙しい。
それなのに、どうしても。
***
気持ちが抑えられず、とうとう司令部へ出向いてしまった。
すると直ぐに、声が掛けられた。
「エドワード君。久しぶりね。どうしたの?」
「ホークアイ中尉。…大佐、いるかな」
ロイの側近である彼女に聞けば、ロイの所在が間違いなく分かる。
聞くと、彼女は少し言うのを躊躇っているように口ごもる。
<・・・?>
何なんだろう。
沈黙の意味が分からなくて、エドもそのまま黙っていると、ようやくホークアイは口を開いた。
「・・・ええ。大量の仕事を片付けているはずよ」
サボっていなければ、と付け足すと、エドは苦笑する。
ありがとうと一言言うと、そのまま歩き出した。
その姿を見ながら、ホークアイは溜め息を漏らす。
彼が来ると、ロイの仕事は実にはかどらなくなる。
サボるのも、目に見えている。
それでも、エドが来た日のロイの機嫌はすこぶる良いようで、それはホークアイにとっても、とても嬉しい事だった。
口は悪いと称される少年だが、軍部の人間で彼を嫌う者はいなかった。
度々来る彼を、むしろ可愛がっている気さえする。
心は優しく、強く。
魅力的だという事は、誰もが分かっていた。
勿論、自分も。
彼が来た日くらい、ロイのさぼりを大目に見てもいいか、と思ったが、やはり仕事は仕事。
そう思い直したのだった。
***
「大佐」
扉からひょこりと姿を覗かせると、大量の書類に埋もれるロイと、ソファーで書類を見ているハボックの姿があった。
うんざり、というその顔が一変する。
「鋼の・・・?」
「見りゃわかんだろ」
エドの後ろに付いているアルも挨拶すると、ロイは微笑んだ。
「あー…えーと…」
困った。
用事を何か、言わなければ。
まさか「大佐に無償に会いたくなったから」などとは言えない。
そんな事を言ったら、気持ちが悪いだろう。
恋人でも、ないというのに。
「茶、飲みに来た。ホークアイ中尉が入れるのって、美味い…から…」
こんな理由があるだろうか。
馬鹿かと思いながらも、一度言ったことを取り消すわけにもいかない。
「ああ、そうか。私もそろそろお茶に…」
「もう会議の時間っスよ」
いそいそと机の上の書類を整えているロイだが、ハボックの一声でその動きが止まった。
「…すまない。じきに終わらせる」
「…うん」
じきに終わらせるから、待っていろ、という事だろうか。
『茶を飲みにきた』とは言ったものの、『大佐と茶を飲みに来た』とは言っていない。
それとも見透かされているのだろうか。
会いたかった、という自分の気持ちを。
暫くロイの仕事部屋で、資料や本を読みふけっていたが、段々眠たくなってきた。
「アル。俺、仮眠室行ってくるな」
「うん」
ゴシゴシと目を擦ると、部屋を出た。
仮眠室のベッドに、ゴロンと寝転ぶと、はーっと息を吐き出した。
どうしてこんなに会いたくなるのか、自分でも分からない。
何か、特別な何かが、あるとでも いうのだろうかー・・・
***
「大佐、落ち着きないっスね。何かあったんですか?」
会議中。
コショコショと、ハボックがホークアイに尋ねると、ホークアイはやっぱりか、という具合を見せた。
「エドワード君が来ているのよ」
「?知ってますよ」
それが何なんだ、と言わんばかりに返される。
彼は分かっていないようだ。
それならそれで、放っておけば良いと思い、それ以上は口にしなかった。
本当に、落ち着きがない。
ロイは会議を早く終わらせようと必死だった。
貴重なのだ、彼がここに居てくれる時間は。
確かにエドは、度々来る。
しかし、自分が会いたいのは常、だ。
度々では足りない。
故に、こんな会議はとっとと終わらせてしまいたい。
彼の事だ。
ここに居るのが飽きたら、容赦なく帰るだろう。
それを思うと、焦って仕方がなかった。
やっと会議が終わると、仕事部屋に向かって足を速めた。
どうかまだ、あの金色の髪が目に入ってくるようにと、そう願いながら。
ガチャッと扉を開けると、視界に飛び込んできたのは、鉄の鎧。
エドワードではなく、その弟・アルフォンスだった。
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