ある日のお昼休み−


「はい、お釣り」


私はいつものように、学校の廊下で弁当を売っていた。

これには訳がある。

職を失った父は今だ再就職先を見つけていない。
貯蓄を食いつぶすのを少しでも抑えようと、母はパートを始めたが、それでも大した額にはならない。


、料理得意でしょ?学校でお弁当でも売ってよ』


という母の言葉で、私も学校でお手製の弁当を売るハメになった。
有り得ないと思ったけど、これが結構好評で、バイト代を合わせると、そこそこの額にはなる。



「がんばってるじゃねーか」


全て売り終わると、いつもの如く、彼が現れた。


加賀 鉄夫。

でっかい背に、強面の顔の加賀とは、小学校からのクサレ縁。

まさか高校まで一緒になるとは思わなかったけど。



「見てみて!!今日は完売〜♪」


ホラホラ、と何も残っていない机を嬉しそうに見せると、加賀が眉を寄せた。


「・・・で?俺の分はどうした」


「無い。売れたから。から揚げ弁当は人気あるみたい!サバ味噌の時はちょっと残ったからあげれたんだけどねー」



高校生の口には渋いのかなぁ〜等と言っていると、加賀が私の後ろの壁に、勢い良く手を付いて来た。
至近距離で顔を見ると、本当に整ってるなぁ、と思う。


・・・。お前な、この場所で商売できんの、誰のお陰だ?」


「加賀」


「わかってんじゃねぇか。で?その俺の弁当が無いっつーのはどういう事だ?」


ここら辺の廊下は、いっつも不良が溜まってるんだけど。
加賀が話しをつけてくれたから、私は安心してお弁当を売れる。

勿論それは、感謝してる。


「ごめんごめん。これからはちゃんと、加賀様の分も用意させていただきますっ」


両手を合わせて謝ると、加賀はやっと笑ってくれた。


「加賀、早く購買行かないとパン売り切れちゃうよ」


「もう残ってねーよ」


そう言われて時計を見ると、確かに・・・

もう残っていなさそう。

あ、でも。

後ろにオドオドとしている女の子が目に入った。
手にはお弁当の袋。

加賀の方を見ている。

なるほど。


私はどうやらお邪魔、のようだ。


「でも、お昼。女の子がくれそうだよ」


「はぁ?」


私が後ろを指さすと、加賀がその女の子の方を振り返った。

今がチャンス、と言わんばかりに、その女の子はこっちへ駆けてきた。


「あ、あのっ加賀先輩・・・」


可愛い!!

うわ、私のタイプ〜っ!!


「名前、なんていうの?」


お邪魔だと分かってるんだけど、ついつい聞いちゃった。

だってこの子、可愛い〜!!

可愛い子を見ると、つい聞いてしまいたくなっちゃうのよっ。



「え、あ、奈実です・・・」


「奈実ちゃんだって〜!!可愛いね!加賀っ!」


「あのな、・・・」


ん?
どうしたんだろう。


加賀があんまり乗り気じゃないが気に掛かる。

加賀のタイプじゃないのかなぁ。
でも、こんなに可愛いし。


「あの、それで、お弁当・・・」


良かったら、と、奈実ちゃんのお弁当が加賀の前に突き出された。

可愛い包み。

いかにも、好きなヒトにあげる為に頑張った、というのが伝わってきて、私はどうしても応援したくなった。



「加賀、お弁当ないし。有難く頂きなよ」


言ってみたものの、やっぱり加賀は乗り気じゃなさそうだった。

・・・?





「ん?」


「お前は貰った方がいいって、思うか?」


真剣な顔で聞かれるから、私も真剣な顔で答えた。


「うん」






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