「…アキラ君」
「…‥‥‥」
私は、まだ黙ったままのアキラ君の服の裾を後ろから引っ張る。
・・・どうしよう。
「アキラ君…こっち向いて?」
そこまですると、ようやくアキラ君は私の方を向いてくれた。
そして、息が窒息しそうなくらい、きつく抱きしめられた。
ー苦しいけど、心地いい。
「…?アキラ君?」
…どこか、不安気な感じがする。
こんなアキラ君は、初めて見たなぁ。
そっと背中に手をまわし、抱きしめ返そうとすると、唇を塞がれる。
「ん…っ」
長く、長く口付けられる。
ちょ、ちょっと待った…!!長すぎるー!
少し胸板を押し返すと、チュっという音と共に、唇が開放された。
「いつか…キミとこうする事の出来ない時が来るかもしれない」
「え…?」
「こうやってまた、誕生日が来て。年を重ねるごとにさんと離れる時が近づいてくる気がして、怖い」
馬鹿みたいだろう、とアキラ君は自虐的に笑う。
ー胸が、甘く疼いた。
怖がることなんて、ないのにって思った。
アキラ君と離れる事とか、そんな事、考えたくないよ。
それほど、私は好きなのに。
分かっていないのかな。
「ボクは」
「ん?」
「さんがいなくなったらどうなるんだろう」
「ん?うーん、どうだろうね!」
「…キミはもう少し、何か言えないのか」
ニコニコして言うと、アキラ君が不満をこぼした。
あ、やっぱりあっさりしすぎてたかな?
でも、だって。
「…だって、私はアキラ君のこと本当に好きなのに。…いなくなったらとか、そういうこと…考えてほしくないよ」
ぽつり、ぽつりと言葉を口にすると、アキラ君の顔が赤くなった。
出会った頃は、あんまり喜怒哀楽の激しくない人だって思ってたけど、全然違った。
アキラ君は面白いぐらい、感情の起伏が激しい。
不安とかだって、会ったばかりの頃は全然、感じてない人だと思っていたのに。
違ったんだね。
ー・・・うーん、やっぱり好きだなぁ。私。
「アキラ君が不安にならないんだったら…私、何だって…」
完全に雰囲気に呑まれてしまった私は、そんな事を口にする。
…あ、あれ?今、なんかマズイ事言ったような。
口にしてから気づいたけど、アキラ君は聞き逃してはくれなかった。
「何だって…してくれるの?」
「…う、ううん!冗談!」
「嬉しいな。さんがそんなこと言ってくれるなんて」
「人の話し聞いて!」
ギャーギャーと言っているうちに、また、キツク抱きしめられた。
そのままアキラ君の胸に収まっていると、ゴホン、と後ろの方から咳払いが聞こえた。
ん?
今、この部屋には、アキラ君と私しか居ないはずなんだけど。
・・・・嫌な予感。
後ろを振り返るとー…
「お…緒方先生…っ!!」
「…財布を忘れた…」
うそーー!!!
だ、誰か嘘だと言って!
気まずそうに目を逸らす緒方先生を見て、私の顔は青ざめた。
い、いつからいたんですか…!!
どこから見られてたのー!?
頭の中をぐるぐると回る。
チューしたとこ見られたのかなとか、塔矢先生に告げ口されるのかな、とか、色々な心配が胸の中で渦巻く。
けれど緒方先生は、余裕の笑みを私に向けた。
「邪魔して悪かったな」
それだけ言うと、緒方先生は去って行った。
…謎多き人だなぁ、緒方先生って。
ーあ、そうだ。
そういえば、すっかり忘れてた!肝心な言葉。
「アキラ君」
「ん…?」
「誕生日、おめでとう」
後でプレゼント、一緒に買いに行こうね!と告げると、、アキラ君は優しく微笑んだ。
「…そうえいば、さん。僕が不安にならないんなら、何だってしてくれるんだっけ?」
「し、しないよ!」
ま、まだ覚えてたの〜!?
私が焦って否定すると、アキラ君は「残念だな」と肩を落とした。
「…何?」
うう!そんな顔されると、聞いてあげたくなってしまう。
首を傾げると、アキラ君は耳元で囁いた。
『・・・ ・・・ ・・・ ・・・』
私はそれに、おかしくて笑ってしまった。
だってそれは、私の願いでもあるんだから。
アキラ君がお願いしなくたって。
ずっと ずっと 側に居て欲しい。
ずっと ずっと
永遠に、貴方とー
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