欲しいものも
特別な存在も
囲碁以外必要ないと
思っていたはずなのに
どうしてこんなに―…
‥
「〜〜…負けました…!も−私、緒方先生と打つといっつも負ける!」
「検討するか?」
俺の家で対局をしていたが、は負けてしまいふくれ面を見せる。
愛嬌があるその顔に、ついつい微笑んでしまう。
「うん…私、緒方先生と相性悪いのかな〜」
「相性というより…勉強が足りないんじゃないか?」
そう言って笑うと、はますますふくれて睨む。
面白い。
見ていて、飽きないと思う。
「わ、わかってますよーだ…!−…あ!…もう行かなきゃ…!」
「…何か用事があるのか?」
時計を見て、は慌てて帰る支度を始めた。
相当急いでいる。
そんなに大事な用事なのか…?
「うん!和谷君達と遊ぶ約束してるんだ」
は嬉しそうに、首にマフラーを巻くと何か思いついた様に緒方を見つめる。
「和谷」
ああ、院生時代から一緒の…
良く口に出す名前はもう覚えてしまった。
「和谷」
「伊角」
「奈瀬」
「進藤」
どうやらこの4人と仲が良いらしい。
「…そういえば‥緒方先生って何で私と頻繁に打ってくれるんですか?」
マフラーを巻き終えたは、じーっと俺を見つめてくる。
「…お前の打ち方は…面白いからな」
ゴホンと席払いをして俺が答えると、はふーんという表情を見せる。
…違う‥ 。
今自分自身が口にした事を、すぐに否定する。
そんな事じゃない
ただと
会える口実を―…>
帰る支度を一通り済ませたらしいは、不思議そうな顔をしている。
…何だ?
「…?緒方先生?」
「?」
「あ、いえ…何か…悲しそうだったんで…」
顔に出ていたらしい。
…参った。
行ってほしく ない、という 自分にしては幼稚すぎる感情を、どこへ持って行けばいいのか分からない。
「…送っていく」
自分の感情を殺し、車のキーを取り出すと、がキーを奪う。
「…何だ?」
「ちょ、ちょっと待って」
は鞄の中から携帯を取り出すと、それで電話をかけ始める。
何をする気だ?と思っていると、の口から聞きなれた名前が出る。
「…あ、和谷?ごめん!今日ちょっと遅れる」
は片手でゴメンのポーズをとる。
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