俺の位置からでも、「和谷」の怒ったような声が携帯から聞こえる。
「ごめん!必ず行くから!」
それだけ言うと、は携帯を切り、俺の方を向く。
「もう一局、お願いします」
人差し指を立てると、上目遣いに俺を見る。
ドクン、と胸が高鳴ったのが分かった。
俺が目を丸くしてを見ていると、は首を傾げる。
「…?あー…緒方先生…何か…用事あった?」
「…いや‥無いが…。…行かなくていいのか…?」
「…もうちょっと」
言いながらマフラ−を外し、コートを脱ぐに、自分の気持ちを見透かされたような気持ちになった。
『行ってほしくない』
確かに自分は感じた。それも強く。
ーどっちが子供かわからないな…
こんな感情が自分にあったのか、と驚いてしまう。
微笑をもらし、の方を向くと、は既に碁盤の前で待ち構えていた。
「緒方先生、早く打とう」
は笑って碁を打つ手つきをにしてみせる。
「…ああ」
俺も碁盤を前にして座り込む。
そうして、自分の中である感情が強まっていくのを感じる。
行ってほしくない
もっと 近くに
俺だけの方を
何とか
手に入れたい−…
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