「おっせーぞ!!!」
緒方先生の家を出て、和谷達の指定した待ち合わせ場所に行くと、そこには少し怒った顔をした和谷が、早く来いと叫んでいた。
あー、やっぱり怒ってる…
「ごめーん!」
私は謝りながら、急いで和谷達の居る方へ向かう。
「どうしたんだ?」
皆の側に駆け寄ると、遅れた理由を伊角さんが聞いてくる。
こういう時、伊角さんは頼りになる。
責めるでもなく、理由を聞いてくれるから…。
「緒方先生と打ってたんだよ」
さらりと答えると、その場にいる和谷や伊角、越智や奈瀬ちゃんも皆、目を丸くして私を見ている。
何かおかしな事を言ったかなぁ、と思っていると、やっと和谷が口を開いた。
「…何でお前と緒方先生が‥」
和谷のその質問に、私はうーん、と首を傾げてしまう。
何で。
何でだろう。
「わかんないけど、最近緒方先生に誘われて、よく打つの。あ‥『打ちかたがオモシロイ』からかな」
自分が和谷と同じような疑問を緒方にぶつけた時、緒方に言われた言葉を言ってみる。
「まぁ‥わかるけど…」
伊角さんがポツリと口にする。
それでも、まだ何か疑問が残るという表情。
…なんだろう?
「緒方さんがプライベートで打つなんてなぁ…」
伊角さんと和谷は顔を見合わせている。
そんなにおかしい事なのかな…。
翌日、朝早くコンビニへ行こうと、家の外に出ると、異様に目立つ赤い車が目に飛び込んで来た。
ドアの前には誰かがもたれかかっている。
あれは…?
「‥緒方先生‥?」
「行くぞ」
強引に手を引っ張られ、車に乗せられる。
あっと言う間にエンジンの音が聞こえ、車はそのまま動き始めた。
「わ‥っ緒方先生!降ろしてよ!」
「駄目だ」
「な‥っ何‥」
無気質な横顔に、あっさり願いを却下される。
ぱくぱくと口を動かしていた私に構わず、緒方先生はただ前を向いて運転する。
‥どこ行くんだろう‥
これ以上何か言ってもきっと無駄だろうと判断した私は、窓の外を眺める事にした。
ビュンビュンと通り過ぎる景色を眺めていると、段々気持ち悪くなってしまい、視線を車の中の緒方先生に移す。
端正な横顔。
眼鏡を外せばもっと格好良くるだろうとか、頭の中で色々観察してみる。
「‥何だ?」
視線が気になったのか、緒方先生がゴホンと席払いをしたので、私は慌てて目を背けた。
それから終始無言のまま、車は走って行く。
車が止まった場所は、私も最近良く出入りしている緒方先生の家だった。
何があるっていうんだろう…
「‥緒方先生」
「何だ」
「何かあるの?今日」
緒方先生の後をトコトコと着いていき、室内へと入っていく。
あんな強引な真似をしておいて、まさか何も特別な用事が無いなんて事はないだろう、と思っていた。
だけど。
「いや‥特にないが」
「は…?」
予想に反した緒方の答えに、暫し茫然としてしまう。
「じゃ、じゃあ何で‥っ」
ムリヤリ車に乗せたの!と言おうとしたけど、その言葉は緒方先生によって打ち消されてしまった。
「打つぞ」
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