「‥‥」

呆れているのか何なのか、はポカンと俺の方を見てくる。
当然だ。
突然車に乗せられたと思ったら、家に連れてこられて。
しかも、ただ打つだけ。

いや、ただ打つだけじゃない。
でもまだ、は知らない。








「‥お腹すいた〜‥」


検討が終わると、が気の抜けた声を出す。
クタクタ、というように、腕を後ろに伸ばして天井を見ている。

そろそろ、だな。


「何か食べるか。‥その前に一つ、賭け事をしないか?」


「?賭け‥?」


「ああ。お前が勝てば、何でも好きなものを食わせてやる。」


思いきりお腹が空いているには、十分な誘惑だ。
それでなくても、は食べ物の誘惑には弱い。
きっと乗ってくる、と、それを見透かして、俺はに余裕の笑みを向けた。


「やるやる!何でもいい?」


私、グルメですよ〜!と、俺の顔を覗き込む。

『可愛い』と正直に、そう思ってしまう。

それと同時に、様々な欲求が沸き上がる。


…俺のものにしたい


他の誰かをどうしても手に入れたいと思った事など、今まで1度たりともなかった。
自分が欲しがるのも、夢中になるのも、感情の全ては囲碁絡みの事にあった。
しかし、に関してだけは特別だったのだ。


「ああ。何でもいい。‥‥そのかわり」


「そのかわり?」


「負けたら俺のものになれ」


「―‥‥‥‥」


その言葉に、は固まってしまう。
どうやら事態を飲み込めていないらしい。


「‥おがたせんせい‥?」


「何だ?」


「“オレのもの”って‥その…」


どういう意味、と目で訴えてくる。
しかし、だって馬鹿ではない。
ある程度予想はしているだろう。


「そのままの意味だ」


「‥‥‥‥」



沈黙。


の考えている事くらい分かる。
きっと『危なそうだから帰ろう』とでも思っているのだろう。

そうはさせない。





NEXT→

←BACK

小説へ戻る