「緒方先生‥あの…」
「逃げるのか?」
俺の一言に、はピタっと固まると眉を寄せて睨んできた。
「俺に負けるのが恐いか‥?」
まるで徴発するように、余裕の笑みを浮かべる。
勿論、知っていた。 が徴発に乗りやすいことも、負けず嫌いなことも。
こう言えば、きっとは対局をうけるだろうと、わざと徴発したのだ。
「−まさか」
案の定、は食いついてきた。
あとは勝てばいいのだ。
負けない自信はある。
負けてなどいられない 。
勝てばを手に入れられる。
「さあ 始めようか」
パチ、パチ、と、静寂な室内に石を打つ音だけが響き、妙な緊張感を醸し出している。
形勢が苦しいは、時折苦い顔を見せる。
そして―
「−‥負けました‥」
そう言ったのは だった。
「‥‥‥」
「‥‥‥」
沈黙が流れる。
は俺の出方を伺っている様だった。
『負けたら俺のものになれ』
あの約束が気になっているのだろうか。
オドオドとこっちを見るが、少し可愛そうになるが、そこで引き下がる訳にはいかない。
ちゃんと、約束を果たしてもらう。
「‥約束、覚えてるな?」
破棄なんて言葉は許さない。
言葉を発すると、由美はギクッと肩を上げる。
「ほ‥本気だったの‥?」
「‥お前な‥」
今更何を言うのだろうと、溜め息を吐いてしまう。
「ふざけて言ったんじゃ‥」
「‥‥‥‥」
2度目の溜め息。
その後に、ひょいとを肩に抱えた。
軽い・・・
ちゃんと食っているんだろうか。
「わ−っっ!ちょ‥っこわ‥っ!降ろしてよ!」
「ふざけた事ばかりぬかすからだ」
「緒方先生!」
|