を抱えて、寝室へ進む。
じたばたと足を動かすが、下ろしてやるつもりなど毛頭ない。


扉を開けて、そこにベッドがあるのが分かると、の足のばたつきが停止した。
そっとベッドに降ろし、の顔を見ると。

見事、縦線が入っていた。


「‥おがた、先生?」


俺がネクタイを片手で緩めると、はビクっと肩を揺らした。。



「う、嘘だよね?」


「嘘なわけないだろう」



の上に覆いかぶさると、そのシャツにおもむろに手を入れ、肌をまさぐる。



「わ‥っま、まって‥!」


待った、などと言われても、待てない。。
行為をどんどん先に進めていくと、の抵抗も少し緩くなった。


「‥‥っん‥ん‥っ」


激しく唇を塞ぐと、の唇から唾液が次々と溢れ出した。
一端唇を離すと、ぼんやりとした表情で、俺を見上げる。
しかし、それも長くは続かない。

すぐに我に返ったらしいは、めいっぱいの力で、俺の胸を押し返した。



「もう、ヤダー!!緒方先生の馬鹿!変態!ひどいっ」


「‥‥‥‥」


何かが切れたように、は大声で怒鳴り出した。
最初は唖然としていたが、その瞳に涙が浮き上がってきた頃、流石にマズイと思った。


しかし、何も言えない。
暫く、沈黙が続き、は緒方に背を向けて、拗ねたように膝を抱える。

俺も口を開かず見ていると、は寒くなったのか、布団の中に潜り出した。

・・・面白い。

このまま、見ているのもいいかもしれない。
と思ったが、そろそろ話をしたい。


「―‥いい加減にこっちを向いたらどうだ」


「‥ヤダ。緒方先生キライ」


布団の中からモゴモゴと聞こえる声に、顔は引きつった。


  『キライ』


唯一の存在であるに言われたまま、放っておくわけにはいかない。


一つ溜め息をつくと、がくるまっている布団の上に手を置き、ポン、と優しく叩く。


「‥悪かった。−腹、減ってないか?」


を迎えに行ったのは早朝。
それからは、何も食べさせていないのだ。
が空腹を抱えている事など、分かりすぎていた。


「何か食いに行くか?‥この前行っていただろう、代官山の店が上手いだとか‥」


「食べるっ」


ガバッと勢い良く布団を出て返事をしてしまった後、は『しまった』という顔をする。

つい笑みを漏らした俺につられたのか、もヘラっと笑った。













「‥緒方先生‥」


「何だ」


上手いと評判だと言っていたパスタの店のメニューを開きながら、がオドオドとこっちを見る。


「ここ本当に高い・・・けど」



・・・遠慮してるのか。
らしくない。


「‥俺はそんなに貧乏に見えるか?」


わざとが困るように言ってやると、案の定、は焦って訂正し出した。


「そ、そうじゃなくて‥悪いなって‥」

俯きながらこっちを見ている様が、また愛らしい。


「いいから何でも頼め」


言うと、はパッと顔を上げ、今度はメニューの前で迷い出した。













「やけに嬉しそうだな」


「すっごく美味しかったから!」



満足げな表情のを乗せて、車を走らせる。


何と単純。
そう思ったが口には出さずにハンドルを握る。
そういう所も可愛いのだ。
そんな事を考えていると、が急に大声を上げる。


「あ−!!私、緒方先生のとこに鞄置きっぱなしだ!」


どうしよう、と俺を見るが、俺には何がまずいのか分からない。


「‥問題ないだろう。俺の家帰るんだぞ?」


「‥?は?なに‥何で‥?」


ああ、やっぱりわかっていなかったか。


「‥もう忘れたか?お前は俺のものだ」






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