全く、いつになったら、またこの間のような行為ができるのだろうと思いつつベッドに近寄ると、の目がぼんやり開いた。

「‥水‥飲むか?」

「んー…」

は寝ぼけているのか、はっきりと答えない。
目を少し擦ると、再びその目を閉じた。

「‥

唇に、触れようと思った。
だが再び、は瞳を開いた。

「…緒方先生は、もっと恐い人かと思ってた」

「‥そうか?」

「うん。でも違った」

静かに話すを黙って見ていると、眠そうな目を閉じ、言葉を口にした。


「私、緒方先生のこと好きだな−‥」

想い人からそんな事を言われて手を出さずにいられる訳がない。
すぐにの唇に、己の唇を合わせると、パチっとまた、瞳が開かれた。

「んん‥っ!?ん、んぅ‥っ‥!は‥っん‥っ」

必死に俺を離そうとするが、俺は離すつもりなんてない。
ただ、キスが激しくなるだけだった。

「ん…っん―!や‥っ…っ!」

「‥…」

やっと唇を離し、の服の中に手を入れようとする俺を、は思いきり突き放した。

「―寝る!」

「おい…」

「オヤスミナサイ!」

がばっと頭から布団を被ったきり、朝までは出てこなかった。



それから数日−。


と俺は事実上、半同棲、というカタチになっていた。
時々家には帰るものの、はほとんどの時間を俺の家で過ごしている。

キスをすれば、一応は応えてくれるだが、それ以上は拒んでいた。
対局に負け『俺のモノ』になったはずが、思い通りにはいかない。

それでも、『以前よりと時間を共有できるようになった』と満足するようにしていた。




だが―‥



もうすぐかもしれない…


いつも心の中では『その時』がくる事に怯えていた。
自分が対局で勝って始まったこの関係。
しかし、いつか言われるかもしれないのだ。に、

『もう一度対局をしよう』

と。


『もしも私が勝ったら


この間の約束は消して


そうしたら私は


緒方先生のものじゃなくなるから』




対局によって得たこの関係が、対局によって崩れたとしても、何の不思議もない。
しかし、怖かった。

『対局、して』

いつ言われるかもしれないこの言葉が

どうしても恐かった。


「緒方先生?」


深刻な顔つきの俺を、どうしたのかとが顔を覗き込んでくる。


「ああ‥いや…何でもない…」

この不安を悟られないように、と俺はいつも通りの顔を装う。



しかし―…


「緒方先生、対局してくれませんか?」


のその言葉に、心臓が固まってしまったように思えた。


ついに、来た。
ゴクン、と息を呑む。


「―対局‥?」

「うん。私が、勝ったら」


…。俺は‥」

の口から出るであろう言葉が恐くて、俺は喋りだそうとするが、は話を続ける。


「私が勝ったら、そうしたら今度は、緒方先生が、私のものになってよ」

予想とは正反対のその言葉に、耳を疑ってしまった。

・・・今、何と言われた?
からかわれているんだろうか。
こんな事、有り得るのだろうか・・・。

「‥何を言って…」

混乱していると、はキレ気味に、言葉を出す。

「…好きって、言ったよ。私は」

「‥何…?」

突然、蘇った。
が酔った、あのバーに行った時の事を思い出す。

『私 緒方先生の事 好きだな―』


頭に、の一言が甦る。
の事だから、恋愛感情で言ったのではないと思っていた。
しかしどうやら、アレは告白だったらしい。

「なのに緒方先生は、キスとかでごまかそうとするし」

勿論、ごまかしたつもりなどない。
ただ我慢が効かなくてした行為を、は誤解していたらしい。


ーまいったな。


「…対局、もう一度してくれるよね」

「‥ああ」


沸き上がるこの気持ちを抑え、正常心を装いながらと対局する。








結果は―‥

















数日後―‥





「緒方先生、対局しよう!」

パタパタと、パソコンに向かう俺の元へが走ってくる。
対局ばかりせがんでくるに、もっと他の事もねだってくれないかと思ってしまう。
だがどうも、自分はには甘いらしい。
ついOKを出してしまう。




「じゃあ、私が勝ったら・・・」







「‥望むところだ」







コソッと耳許で囁かれたその言葉に、口元を緩めた。









END













あ、甘いー…汗
読んでくださった方々、ありがとございましたvv





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