「…嫌いですか?この香り」
「…スキだけど。ランボが使いなよ」
「2つあるんで、どうぞ」

綺麗な顔で、意外と残酷だ。フェミニストなくせに、残酷。しかし残酷という事が、分かっていない。
そこがまた、ランボのタチの悪いところだった。
そして、その部分がランボの魅力でもあるらしいのだった。
誰のものにもならないような奔放さにも、女達は惹かれているらしい。
女性とは良く分からないと、ツナは思った。


「…オレにはオレの香りがあるから、いい。ブルー・プールオムはリボーンが嫌がるしね。
お菓子は好きな時食べて。葡萄も。飴はポケットにでも入れて。−ワインは飲みすぎないくらいに。
ランボだったらケーキもつまみになるかな…。気分じゃなかったら、チーズも冷蔵庫にあるから」
「…はい」
「香水はあげる。貰った香水が無くなったら、オレのを使えばいいよ」

誰かにあげても構わないから、好きなように。
言うことだけ言うと、さっさとランボから離れていった。
ひどく、寂しい別れだ。とり残された部屋で、一粒だけ、葡萄を口にした。














「済んだか?」

扉を出た途端、目にしたのはリボーンだった。
黒いスーツを着る為に生まれてきたような、不思議な美貌。
鋭くすれば射抜かれてしまいそうな眼光に、ツナは穏やかに答えた。

「ん、済んだ」
「−…あのタラシの何処がいいのか、分かりかねる」
「リボーンだって、女のひと、たくさんいるくせに」
「オレは見境の無いフェミニストじゃない」
「はは。まあー…確かにね」


苦笑を漏らし、ランボの憎たらしいほどに美しい、微笑みを思い浮かべた。
いつの間に、あんなに背が高くなったのかとか、いつの間に、あんなに睫毛が長くなったのかとか。
いつの間に、あんなに女性に愛されるようになったのだろう、−などと。
考え出したらキリが無い。
自分の身体から、ほのかにブルー・プールオムが香った。







モグモグとケーキを5切れ目。
ランボはベッドに座ったまま、口だけを動かしていた。
そそくさと、朝のキスも無しに、ツナをリボーンに奪われた。
忙しいと言っていた。
だが、昨夜だって何も無かった上、今朝も手出しが出来なくて、ランボはツナ不足だった。

(素っ気無さすぎないか…)

どんよりと、部屋中に暗い空気を振り撒いていると、扉がコンコンと音を立てた。
返事をすると、ひょこりと、女中が顔を出した。黒いスカートに、清潔感溢れる、白いエプロン。
お茶を乗せたワゴンを引きながら、静かに近づいて来た。

「あのう、1時のお茶をお持ちしたんですけど…」
「どうも」

どうやらツナが女中に頼んだようだった。
お茶の中でほのかに甘く香るキャラメルが、ティーカップへと注がれた。
ランボのティーの好みなんて、ツナと、後はボヴィーノのボス以外は知らないだろうから。
栗色の緩やかなウェーブを揺らし、ランボへカップを差し出す。

「ありがとう」

優雅に微笑んだランボに、女はぼうっと見惚れたかと思うと、直ぐに瞳を逸らした。

「10代目は今日、忙しいのかな」
「ええ、そうみたいですね。さっきも廊下を走っておいでだったから」
「そう。10代目と遊びたかったのに。残念だな」

睫毛を伏せると、女から、ほうっと溜め息が漏れた。
女は美しい物を鑑賞するかのように、じいっと、見つめていた。
ランボが瞳を向けると、また、女性は瞳を逸らした。

「遊ぶ、ですか?」

コクリと頷き微笑む。まさか寝るだの何だのとは、言えない。
その時、ふわりと、窓から風が舞い込んできた。
女性の髪が、揺れる。それと同時に、香った。
これはツナの、匂いだ。

「−…10代目の匂い」

ストレートに言い当てられて、女は笑った。
まさか、こんな、誰々と同じ匂いがすると、名指しで言われるとは思っていなかったのだろう。

「実家で作った石鹸、10代目にも差し上げたんです」

髪も身体も、顔も洗えるらしい。
朝、シャワーを終えたツナから香ってきた匂いは、これだった。
女の近くに行くと、匂いは更に近くなる。
きゅう、と、女の腰に手を回すと、座ったままの状態で、抱きしめた。
ツナと、同じ匂い。


「…あ、あの…?」
「10代目は何時ごろ、終わるのかな」
「ど…どうでしょうか…」
「早く終わってくれればいいのに。寂しいから」
「ランボ様でしたら、他にも遊び相手が沢山いらっしゃるんじゃないのですか?」


女中達の間でも、勿論ランボは噂されていた。
10代目のお客様の中で、抜きん出て綺麗な男性。
無意識に振り撒くその微笑みと、洗練された雰囲気で、女中達をも魅了していた。


「うーん、でも、10代目が1番楽しい」
「楽しいーですか?」
「それに、あの方は可愛い。最高に。今まで会った人間の中で、一等」

抱きしめる力が、一層強くなった。女はいよいよ、顔を赤く染めた。
しかしランボは全く気にかけない。容赦なく、抱きしめる。

「オレが誰に贈り物を貰おうと、誰と一緒に居ようと、全ての1番は10代目なのに」

10代目は、オレと遊ぶのがつまらないのかな。と、ランボはションボリした。
女はどうしたらいいのか分からず、とりあえず視線を落とすと見える頭に手を乗せ、あやすように撫でた。
2回、3回、4回撫でたあたりで、扉が開かれた。

「ランボ、お茶を頼んでおいたんだけどー…」

ベッドに座ったまま、女中に抱きついているランボに、頭を撫でている女中。
目の前に広がった光景。
ツナは言葉を失った。横に居たリボーンは、呆れかえっていた。
しかしランボは何も気にしていないという風に、ツナに駆け寄った。

「10代目!仕事、終わっ」
「…っランボの馬鹿!!たらし!ばか!牛!ばかうし!」

普段は、いくらランボが他の女性を構ったりしても、怒ったり、あまり煩くは言わないツナだが、今回は怒った。
今朝の、リボンが掛かった、しかもキスマークの付いた香水。それも、煩く言いたくなくて、堪えた。
いつも、堪えた。しかし、今朝プラス今の光景。一気にダメージがきたのだ。

「あんまり度が過ぎるんだったら、ボヴィーノのボスに言いつけるからな!
もう、葡萄もお菓子もケーキもあげない!禁止!ボヴィーノの方にも伝えとく…っ」

目一杯怒鳴って、ゼイゼイと息を切らしているツナの頭を、リボーンは自分の肩に寄せると、
横目でランボを見た。呆れたように。
うっすらと涙目になっているツナの後頭部を、ポンポンと叩く。

「ああもう、泣くな」

二人の様子に、今度はランボが固まった。
ジロリとランボを見ると、リボーンは舌打ちをする。
もう一度、静かに溜め息を吐き出すと、ぼそりと、小さく、しかしよく通る声を響かせた。

「…ツナもほとほと甘い」

もっと効果のある攻撃が残ってるだろうが。
そう呟くと、更に鋭く、眼光を輝かせた。ぎゅっとツナの頭を抱くと、また、撫でる。

「おい、アホ牛。そのうちツナに捨てられるぞ」
「!!!」


後ろに、ガーン という文字が見えそうな程、ランボはショックを受けていた。
今にも泣き出しそうなランボに、ツナは慌て出した。
先ほどまでは、自分が泣きそうになっていたというのに。
リボーンの側を離れ、ランボの側に行くと、ぎゅうと抱きしめた。

「す、捨てたりなんかしないよ、ランボ」

他の女から貰ったプレゼントを平然として見せる女たらしでも。
ただ大きくなったような、甘えたの子供でも。
結局どうしても、ランボを放ってはおけないのだ。
女中は呆気に取られており、リボーンは呆れて溜め息を吐くしかなかった。



後日。
リボンのついた、キスマーク入りのブルー・プールオムは、嫌がるリボーンに無理矢理送りつけられた。
しかし勿論、リボーンがその香りを匂わせた事は、まだ一度も無い。










ランボ初めてツナに 牛!って怒られた。
のび太のくせにナマイキだ!みたいな納得いかない怒られ方でちょっとゴメンよランボ!
結局ただのバカップル話になってもうたです。




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