**片思いの行方**























昔は花屋なんて滅多に行かなかったのに、近頃通っている店は小さな花屋だ。





一番最初にこの花屋に訪れたのは、友達の誕生日の為の花束を用意する為だった。
ラッピングそしてくれた女の子が、中々可愛くて。

何故だか気になって。

次の日にその花屋に行ってみると、またあの子がいた。
エプロンにピンで留めている名札には『』と書いてあった。


、か。
ここの店の名前は『フラワーショップ 』だったから、一発で此処の娘さんなんだな、って思った。

下の名前が知りたい。



そこからは、もっと親しくなりたくて、通い詰めた。

だけど今日まで通って、彼女と話したのは一言



ラッピングして貰った後の「ありがとう」だけだった。



勿論、下の名前だって聞けていない。




馬鹿か、俺は…。




もう女は面倒くさくて、当分遠慮しておこうと思っていたのに。
大体俺は、外見重視だったはずだ。
いつもなら、少しくらい可愛くたって気になったりしないのに。


いつもの様に『』に行こうと思って、近くの駐車場に車を止めた。

バタン、とドアを閉めて外に出ると、見覚えのある横顔が通りかかった。


「奈瀬!」


「え…?あ!冴木さん!」


セミロングの髪を揺らし、タタっとこっちへ駆け寄ってくる。


「何処行くの?」

送っていこうか、と言うと、奈瀬はううん、と軽く首を振る。


「もう近くだから平気です。って知ってますか?花屋なんだけど…」


ドキン。


俺と同じ目的地だ。


「知ってるよ。俺も今から行こうと思ってたから。…花、買いに行くの?」


「ううん、友達がそこの花屋の娘で。ちょっと遊びに行くんです」


まさか。
心臓が煩く鳴り出した。


「友達って…さん?あ、いや、髪がこう、綺麗な…」


馬鹿みたいな表現をしてしまった。
普段の俺らしからぬ言動に、奈瀬は首を傾げる。


「…ちゃんの事?」


?下の名前はって言うのか?


「冴木さん、の知り合い?」


「違うけど。いつもラッピングしてもらってるから」


「ふうん?」


緊張しながら話していると、いつの間にか話題の花屋に着いていた。
奈瀬が元気の良さそうなおばさんに、『さん、いますか?』と訪ねると、おばさんは大きな声で彼女の名前を呼んだ。


「あー!明日美ちゃんっ!」


彼女が出てきた瞬間、心臓が飛び出そうになった。
彼女だ。


「遊びに来ちゃった!」

嬉しそうに手を合わせる二人を見ていると、彼女がチラっとこっちを見た。


「あ、どうも」


彼女はペコリと頭を下げると、『今日は何をお探しですか?』と仕事モードで話しかけてくる。
俺を奈瀬の友達だとは思わず、いつものように花を買いに来た客だと思っているらしい。

ちゃん、私の先輩。冴木さんっていうの」


おかしそうに笑うと、彼女はビックリして声を上げた。


「えー!そ、そうなの?スミマセン…。いつも来てくださってるから、つい…」


照れ臭そうに視線をずらした後、俺の方を見てにこっと笑う。
うわ、俺に話しかけてる。
言葉を交わした事が無いに等しいから、妙な感動があった。




 です。明日美がいつもお世話になってます」


「いや、こちらこそ。冴木光二です。」


「お世話になってますって、、お母さんみたい。冴木さんも!」


もうっと膨れる奈瀬に、心底感謝した。
やっと会話が出来た。

そんな事を思う自分が、ガキ臭くておかしい。


「…でも冴木さん、いつも来てたの?」


奈瀬が怪しげに見てくる。

…バレたかな。


「そうだよー。いつも花束、買っていきますよね?お母さん、冴木さんの事、格好いい格好いいって。いつも言うんですよー」


あはは、と笑う表情に、また胸が高鳴る。

ちゃんは、どう思ってたんだろう。
毎日来ていた俺の事を。







あっという間に楽しい時間は過ぎてしまった。
人と話すのがこんなに楽しいと、嬉しいと思ったことはない。

帰り道、奈瀬を乗せてハンドルを握る俺に奈瀬は、



「冴木さん、花屋に用があったんでしょ?何も買わなかったですね」


と、ギクっとするような事を言ってきた。






…やっぱりバレたかな。










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