翌日、和谷の部屋で開かれる研究会に顔を出すと、奈瀬が早速突っ込んできた。
内容は勿論、昨日のことについてだ。
「冴木さん、昨日何買いに行ったんですか?」
ニコニコしながら、奈瀬はひょいと顔を覗かせる。
こういう時の女の勘は怖い。
こっちの気持ちを見透かされてるような感じがして、たまらない。
花屋に行ったのに、何も買わなかった俺を、奈瀬はかなり不審がっていた。
それに『』に着く前にも、ちゃんのことを奈瀬に聞いてしまったものだから、もうバレてしまっているに決まっている。
今までだったら、誰が好きだの、あの女がタイプだのと口にすること、全然躊躇わなかったのに。
誰かに好きな人がバレる事なんて、全く気にしていなかったのに。
ちゃんに関しては、どうも別らしい。
「なぁ、誰だよ。さんって」
奈瀬の話を聞いて気になったのか、和谷が尋ねてきた。
…何故か、ちゃんは和谷には見せたくないな、と思った。
彼女の事を、あまり知ってほしくない。
しかし俺のそんな気持ちがわからないのか、奈瀬はちゃんの事を色々話し始めた。
俺だってあまり知らない情報を次から次へと、和谷へ流すもんだから、俺はちょっと不機嫌になっていた。
「冴木さん?どうしたの?」
…は?
「何が?」
奈瀬の言っている意味がわからない。
何がどうしたの、なんだ?
「怒ってるみたいな顔、珍しい」
そこで初めて分かった。
顔に出ていた、という事が。
…得意だったはずのポーカーフェイスが、いとも簡単に崩れてしまった。
どこまでもちゃんは、俺の特別だったようだ。
そんな事を思っていると、突然、綺麗な和音が流れ出した。
携帯の着信?
俺じゃない。
ふと見ると、奈瀬がおもむろに鞄の中を漁っている。
どうやら奈瀬の携帯が鳴り出したらしい。
「もしもし?ちゃん?」
その名前に、俺の心臓は一気に跳ね上がった。
ちゃん…!?
隣にいる奈瀬の携帯が、彼女と繋がっている。
何だかちゃんが近くに居るような気がして、妙にドキドキした。
…自分が恐ろしくガキ臭い。
「え?本当?うん、勿論!場所、分かる?あ、そっか、前に話したっけ。ん、じゃあ待ってるね」
奈瀬はやけに嬉しそうな顔をして、携帯を閉じた。
『待ってるね』
この言葉で、俺はまさか、と期待に胸を膨らませた。
「ちゃん、近くに来てるから差し入れ持ってきてくれるって!」
…やっぱり!
奈瀬の言葉に、和谷も進藤も興味津々に、ちゃんがどんな娘か話している。
うわ、こいつらには本気で見せたくない…。
容貌とかではなく、ちゃんは何故か和谷と進藤の好みのような気がして堪らない。
というか、あの娘だったら誰でも好みだろう。
彼女に会えるのは嬉しいけど、和谷と進藤にちゃんを知られる。
俺は複雑な想いで一杯だった。
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