それからの俺は、チャイムの音をしきりに気にしていた。
ちゃんが来るのを、今か今かと、うるさい心臓の音と共に待っていた。

他の連中の対局も、いつものように集中して見たりする事が出来ない。

そんな時、奈瀬の携帯が再び鳴り出したものだから、俺は肩を上げて驚いた。


「あ、ちゃんだ。どうしたんだろう」


もう既に、その名前を聞くだけで、簡単に飛び上がってしまう心。


「え?あ、本当に?どうしよう。じゃあ今から行くね!そこで待ってて」


え?
何が起こったんだ?

気になる。


「…どうしたんだ?」


俺が聞くと、奈瀬は携帯だけ持って、その場を立つ。


ちゃん、迷っちゃったみたい。ちょっと私、迎えに行っているわ」


どうやらちゃんは、迷子になったらしい。
迷子。可愛い。
道端でオロオロとしている姿が、安易に想像できて、微笑ましくなった。


ああ、でも、迷子。
それなら。


・・・チャンスじゃないか…?


「俺が行くよ」


気づけば、そんな言葉を口に出していた。
奈瀬を始め、何故か和谷や伊角君もこっちを見ている。


…俺がこういう事言うの、そんなに変なのか…?


自分で言うのもなんだけど、女の子には優しくしてきた。
困ってる子がいると、放っておけない。

…なのに、なんでそんな意外そうな目で見るんだ…?



「そうですよね。じゃあ、冴木さんに頼もうかな」


俺の下心を見抜いたように、奈瀬がニンマリ笑う。
何が『そうですよね』なんだ…。
…やっぱりお前、気づいてるよな。


「冴木さん、女の子には基本的には優しいけど、今まであんまり自分から動かなかったのに」


「そうそう、相手が何か言ってきたら拒まないっていうか…相手が助けて〜!って言ってきたら助けるっていうか…来るもの拒まず的だった」


二人が、今までの俺について語りだした。
…そうだったか?

…そうだったかもしれない。


そこそこ、自分の恋愛事情を知っている二人が言うのだから、多分、そうなんだろう。



…まいった…

そんなに、違うのか?

そんなに、ちゃんは、俺の中の『特別』なのか?




「…行ってくる」




二人の意見については、ノーコメントにして、俺は部屋の扉を開けた。











…どこだ?

奈瀬から、ちゃんがどこで迷ったか…

それを聞くのを忘れていた。



とりあえず、家周辺で迷いそうな所を探してみるが、見当たらない。

一回、戻って聞いてきた方がいいかな。



いや、公園付近…
あそこらへんは迷いやすいはずだ。


そうだ、きっと公園。


そう思い、公園目掛けて走り出した。


公園に着くと、ブランコに乗っている寂しげな女の子が見えた。



ちゃんだ。




走って来た所為で早かった鼓動が、彼女を見ると、より一層、早くなった。

それはもう、走った時となんて、比にならないほどに。



ゆっくりゆっくりブランコに近づくと、ちゃんがやっと俺に気づいた。






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