「冴木さん!」
ふわっとブランコから降りて、すぐに俺の方まで駆け寄ってきた。
・・・うわ。
安心したのか、ちゃんは何の躊躇いもなく、俺に密着してくる。
抱きしめられる、とまではいかないけど、それに近いくらい。
顔が火照るのを感じ、それを見られたくなくてちゃんから視線を逸らすと、ちゃんは首を傾げた。
そしてやっと自分の大胆さに気づいたのか、顔を俯かせながら俺から少し距離を置いた。
残念、という気持ちと、安心した気持ちが入り混じって、俺の心の中は複雑になる。
「良かった。冴木さんが来てくれて!差し入れ持って行こうと思ったら、迷っちゃって…」
「和谷の家、結構入りくんだ所にあるから…。差し入れって何持って来てくれたの?」
ちゃんの手には、小さい紙袋と。
手には綺麗な、小さい花束。
オレンジ、白、ピンク・・・
全て温かみのある色ばかりの花が集められた花束だった。
・・・ちゃんが作ったんだろうな。
「ケーキとお花・・・なんですけど。お花より、もっと食べ物の方が良かったかな…」
今更なんですけど、と頭を掻きながら笑う。
「そんなことないよ。ちゃんが作ったんだろ?」
そう言うと、ちゃんは照れながら頷いた。
本当に、彼女がくれるなら何だって構わないと思う。
・・・いや、別に俺一人に差し入れしてる訳じゃないけれど。
「・・・花、好きなんだ」
「大好きです!」
・・・驚いた。
ポツンと言った言葉に、凄く目を輝かせて答えてくるものだから。
花が好きな事は、もうとっくに分かっていた。
あげる相手もいないのに、毎日のようにちゃんのいる花屋に通っていたから。
適当につくろって、と頼んだ時に、凄く嬉しそうに花を選んでいたし、ラッピングする時でも、楽しそうだった。
・・・もっと、色々な事を聞きたい。
話したい。
本当なら、すぐにでも足を動かして和谷の家に行かなければいけない。
和谷も奈瀬も、皆待っているだろう。
でも今はそんなこと、どうでも良かった。
この幸せな時間に、足が動いてくれなった。
いっその事このまま研究会をトンズラしてしまおうかとも思ったが、ちゃんが賛成しないだろうと思い、その案はすぐに却下した。
何とか二人でいれないかと、考えている最中だった。
「冴木さん!」
男と女の声が入り混じって、俺を呼ぶ。
この声。
振り返れば、和谷と奈瀬が居た。
・・・お迎えか。
もう少しほっといてくれればと、自分勝手な事を思っていると、自然と溜め息が出た。
「冴木さん、遅い」
和谷がボリボリと頭を掻きながら、俺に言う。
奈瀬は早速、ちゃんに話しかけている。
「俺も迷ってた」
和谷の文句を、冗談で返すが。
・・・ちょっと待て。
お前、何見てるんだ・・・?
和谷は、ちゃんの方に視線を送っていた。
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