駐車場まで着いて、ちゃんを乗せて車を出す。 運転に集中するけれど、どうしても横顔を見たくなってしまう。 「花屋でいいんだよね?」 「はい。…ごめんなさい、送ってもらっちゃって」 「全然。それより…」 それより。 この後、食事でもどう? お茶でも。 というかちゃんが来てくれれば何処でもいいんだけど。 いつもならサラリと言えるはずの誘いの言葉が、出ない。 言う寸前で、詰まってしまうのだ。 …うわ。緊張してる、俺。 なんだか純情少年のようだ。 だが少年時代も、俺にはあまり恋愛というもので緊張した覚えがない。 きっと今が一番、緊張してる。 花屋に近づく度、もっと遠かったら。なんて思ってしまう。 車だから、割と早く着くのだ。 俺も歩いてくるべきだったか…。 …ああ、もう少しで着いてしまう。 そう思って溜め息を一つ零すと、ちゃんが小声で「冴木さん」と呼んだ。 「あのっ、もしよかったら。家でお茶でも」 どうですか?と。俺が言いたくて堪らなかった事を、ちゃんが言ってきた。 こんな事ってあるだろうか… ちゃんから言ってくれるなんて。 「用事があるんなら、また今度でも全然…」 「な、ないって!是非。嬉しいな、ちゃんから言ってくれるなんて。俺も誘おうと思ったとこだったから」 赤信号。 ちゃんの方を見ると、嬉しそうに笑った。 ー可愛い。って、何度思っただろう。ちゃんに出会ってから。 「」に着くと、店のシャッターは閉まっていた。 今日は休みなのか…。 裏口から中に入ると、そこはちゃんと玄関になっていた。 「ただいまーっ」 「お邪魔します」 緊張する。 好きな子の家に入るってこんなに緊張するのか。 早い鼓動を抑えながら、上がらせてもらうと、すぐにちゃんのお母さんが出てきた。 ちゃんと、良く似てる。 きっと若かったらもっと似ているのだろう。 「あら!あら!いつものー」 ちゃんのお母さんは嬉々として目を輝かせた。 ああ、そうか。 お母さんに俺の顔、覚えられてるって言ってたっけ。 「うん、冴木さんっていうの。私の友達の先輩だったんだよ」 「いつもご贔屓にしてくれてありがとうございます〜!どうぞ!汚いですけど!今、お茶をお出ししますから!ほら、!」 テーブル拭いて!とお母さんに命じられたさんは、はーい、と素直に返事をした。 元気なお母さんだな。きっとちゃんとも、仲が良いのだろう。 ソファにかけさせてもらうと、目の前の棚の上に置いてある写真立てが目に入った。 今よりちょっと昔…だよな。 ちゃんと、お母さんと、お父さんで仲良く写っていた。 家族、仲が良いんだな。と、何だか温かい気持ちになる。 緊張も大分解けてきて、ぼんやりと室内を見渡していると、コトンと、目の前にお茶が出された。 「…どうも。すいません、突然お邪魔してしまって」 「私が誘ったの。送ってくれたんだよ、冴木さん」 「ったら積極的ねぇ。色男が好きなのよ、この子」 冴木さんも気をつけて!とお母さんに言われ、ちゃんは真っ赤になっていた。 「な!ちっ違うよ!もう!」 本当に楽しいお母さんだ。居るだけで、その場が賑やかになる。 おかげで、俺の緊張は全く無くなっていた。 そして和谷の家に行った事や、迷った事などを、ちゃんはお母さんに話す。 会話は弾んだ。 だが、時折、咳をしたり、コメカミを抑えたりするちゃんのお母さんが、俺は少し気になっていた。 そしてそれは、ちゃんも同じだったようで。 「…お母さん、具合悪い?」 「平気よ。ちょっと風邪引いたのかしら」 そのコメントに、ちゃんは「そう…?」と力なく呟く。 うーん、大丈夫かな。…今日は帰った方がいいんだろうか。 「…あの」 「、お部屋行ってなさい。後でお茶菓子、持ってったげるから」 今日は失礼させていただきます、という言葉は遮られた。 ー…は? なんだって? 部屋? 「うん。わかった…。お菓子、私がちゃんと用意するからお母さん、寝てなよ」 ソファを立つと、ちゃんは俺を見た。 「行きましょ」と、目で促される。 ーああ、どうやら。これは。 部屋で、二人きり。 解けていた緊張が再び、襲ってきた。 |
なんかサエキが情けなくなって…汗
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