「っ沢田……!」

たまらず、ツナに手を伸ばすと、ぎゅうと抱きしめた。ずうっと、触れたいと思っていた。
ツナの温もりに酔いしれていると、チャイムが響いた。
このままサボっても、問題はなかったが、ツナは持田の胸の中で、モゴモゴと動き出した。

「…わー、悪い」

パっと離すと、ツナはぐったりしていた。強い力で、抱きしめすぎたようだ。
だが、すぐに笑顔を向ける。
ツナには、この抱擁の意味は、仲直りの挨拶のようなものだ、ぐらいに思っていた。
持田に言わせれば、全く違うのだが。

少し和んだところで、さあ教室へ戻るか、と、狭い道場裏から出ようとした。
しかし、その時。もの凄い形相をした獄寺が、息を切らしてやってきた。

「ご、獄寺君!?」
「10代目!何もされませんでしたか…!」
「はあ?」

途中から学校に出向いた獄寺は、教室に入ったと同時に、ツナを探した。だが、見当たらない。
聞けば、過去に問題のあった、「持田」と言う男に呼び出されたらしい。
故に血相を変えて、教室を出たのだ。

「あ、ああ。うん。大丈夫だよ」
「何なんだこいつは!…貴様、なんでコイツとつるんでんだ」

持田が頭をくしゃりと撫でると、獄寺の表情が、更に険しいものになった。
持田を壁に叩きつけると胸倉を掴む。

「テメー、10代目に馴れ馴れしく触ってんな…!」

貴様とか呼んでんじゃねぇ、と、獄寺は今にも持田を血まみれにしそうな勢いだ。
慌ててツナが獄寺を宥めると、漸く、持田の胸倉は解放された。
鋭い睨みを利かせると、持田は一瞬怯んだが、すぐにツナの方を向いた。

「沢田!」
「は、はい?」
「剣道をやるつもりは…剣道部に入るつもりはないのか」

突然なにを言い出すのかと、ツナは言葉を失っている。
しかも、誰かに言われたようなフレーズだ。ぼんやりと頭に浮かんだのは、京子の兄だった。

「や、今のところは…全く」

格好いいとは思うが、自分がしたいとまでは思わない。
大体、持田がツナに剣道を勧める理由が分からない。これも、持田なりの、距離を詰める方法なのだろうか。
折角仲直りしたのだから、という事なのだろうか…。
ツナの頭の中を、疑問符達が飛び交うが、勿論、持田にはしっかり、下心というものがあった。
部活が一緒になれば、もっと親密になれる。

そうして、いずれはー…


それだけのことだった。


「…見学だけでもいい。今度、放課後にでも見に来い」
「ああ!?」
「獄寺君!も、持田先輩!近い内、行きます」

どことなく命令口調な持田の態度に、獄寺がまたしても爆発しそうになるのを、また例の如く、ツナが止める。
持田の誘いは、ツナにしてみれば嬉しいものだった。
勿論、剣道部には入らないだろうが、いつも体育の時間は厄介者扱いをされていたツナだ。
こうやって誘われるのは、やはり嬉しいものだった。

(あ!授業!)

そういえば、さっきチャイムが鳴った。
すっかり頭から抜けていたが、もう授業は始まっているのだ。

「じゃ、じゃあオレ達、戻ります」

ペコっと頭を下げて、獄寺と消えていく。
その場に取り残された持田は、教室に戻ろうとはしない。
呆然と、土の上に立つ。

可愛い。非常に、可愛かった。
綺麗な女性や、見目が良い女性を見た時のような、そういう感じではない。
ああもう、何と言ったらいいのか。

微笑んだ、ツナが。自分に言葉を向けてくれている、ツナが。

何と、言ったらいいんだろう。


「〜…沢田、好きだー…」


自分のに、したい。


もっと早く、気がつきたかった。
きっともう、気がつけば卒業式、とかになっているのだろう。
時が経つのが恐ろしい。


壁に寄りかかったまま、しゃがみ込んでしまって、顔も隠したまま。
持田は1時間、授業をさぼった。







「あとちょっとで授業終わりそう!」

もう授業に出る気など毛頭ない二人は、道場の入り口で、時間をつぶしていた。
最初は石段に腰掛けていたが、冷たいコンクリは、骨に当たって、痛かったので止めた。

「数学の時間だったよな…。後でこってり怒られる…」
「シメましょうか?」
「…う、ううん、それは絶対駄目。数学じゃ、次の授業、もっとついていけないだろうなぁ」
「オレが教えますよ」

それには、素直にありがと、と言った。
ツナの為に、ポンポンと言葉が出てくる獄寺は、本当に、慕ってくれているのが分かる。
少し沈黙が流れたが、それを壊したのは獄寺の低い声だった。

「…あんまり、心配かけないでください」

ぼそりと呟く獄寺の眉間に、皺が寄っている。
きっと、学校に来て、一目散に駆けつけてくれたのだろう。息を切らした獄寺を思い出した。

「うん、ごめん」

ごめんね、と、もう一度、獄寺を見上げる。
もうこれだけで、何でも許してしまいそうになる。
何でも。ツナの言うことなら、何でも聞いてしまいそうな自分。


「−…10代目」
「ん?」
「…ー……何でもないです…」


いつになったら、好きだって言えるんだろう。

その時、チャイムが鳴り響いた。










どうしちゃったのこの持田さんは…ほんとにどうしちゃったの…この、ピュア持田はゴホゴホ…
もっといつものように、ツナを苛めてさしあげなさいよ…

しかも折角持田がピュアでツナラブって叫んでるのに、ツナはなんでピュア持田でなく獄とイチャイチャしてんだ…



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