いつものように、服を脱がす手つきが、スマートで、それがやたらと、気になった。







きみは ペット








「…どうかしたんですか?」
「ん、別に…」

プチ、とボタンを外していく手つきさえ、優雅。優雅。
この男が、10年前はガハハと笑って、我が家を駆けずり回っていたのだ。
小さい体で、ピロリと小さな尻尾に、小さな角、そしてふわりとしたモジャモジャの頭で。
すぐ泣いて、涙と鼻水でグズグズになっていた。鼻水を拭きとってやったことも、飴をあげて
涙を止まらしたことも、それでも泣き止まない時はあやしたこともあった。
その、小さな可愛いガキンチョが、今では立派に「男性」になってしまった。

ランボの顔を引き離し、待ったをかけると、上半身を起こした。
随分男前に育った。昔とは大違いだ。

(10年前…ね。違いすぎる…)

今ではそこらじゅうの女を口説いて回る、フェミニストな男に成長した。
ーああ、なんとも立派なものだ。
あの、すぐに泣く可愛い子は、今となっては女性の前では涙の一つも見せないのだから!
女性を見れば、やれお嬢さんだの子猫だの、何だかもう、10年前の面影もない。
自分はと言うと、あまり変わっていない。ランボだけが、成長を遂げすぎた。

「…10年前は可愛かったのに…」

盛大に溜め息を吐くと、ランボは少しムっとしたようだった。
ずいっと顔を前に出すと、ツナの唇まで、あと1センチ。吐息だけのキスを交わす。

「10年前のオレじゃ、今みたいにうまくできませんよ」
「でも可愛かったよ」
「今は駄目なんですか…」

シュンとしたランボの髪を、ワシャワシャとやると、そんな事ないよ、と言ってやる。
そんな事はないが、慣れてしまった分、可愛気がない。というか、ツナは、面白くない。
ランボが何を考えているのか、良くわからない。

「…でもランボ、女たらしになった」
「そんな事、ないですよ。フェミニストなだけです」
「女たらし」
「10代目が俺一筋になってくれるなら、他の誰とも付き合いませんよ」

余裕の笑みで言う。しかし、ツナは知っていた。
ツナを抱いたかと思えば、他の女を抱き、
ツナを愛してると言ったかと思えば、他の女にも同じような事を言うような男だということを。
外見も良いが、性格も憎めない。なんというか、ヒモ体質だった。
付き合う女達全てに、他の女がいても、仕方ないと思わせるような技を持っているし、女達を丸め込む舌も持っているようだ。憎めない。それがランボだった。

「そんな事ないなら、もっと可愛がってください」
「…か、可愛がる?可愛がるってー…可愛がってると思うけど」

愛情表現って、そんなにしていなかったっけ。
ツナは頭の中で考えてみたが、ランボに厳しく、冷たくした覚えはないし、何故そんな事を言われるのか、分からなかった。
ランボは、確かに直球に愛情表現をしてくれるが、何処か直球ではない気がする。
直球すぎて、真実味に欠ける。他にも言っているという感じが、匂う気がした。
チュ、と唇を合わされ、ボフンとベッドに押し倒される。
一人には大きすぎるベッドは、ファミリーのボス代々の物だった。

「…ん…っ」

深くなる一方の口付けに、それでもツナは一生懸命付いていく。
未だに、こういう事に慣れすぎる、という事はない。
相手は慣れているらしいが、そんなことは知らない。とにかく、自分は慣れない。
美味しそうに、ツナの唇を味わっているランボは、より一層、深いものを求めてきた。
ツナが、少しはだけたランボのシャツの裾を握ると、ランボは一端、唇を離した。
はあっと、息を吐き出すツナにランボは満足そうに笑う。


「やっぱり10代目がいちばん」
「なんだよそれ…」
「もうちょっと、ください」

なにを、と聞く前に、唇を奪われる。
さっきより展開の速いキスに、ツナは一方的にされるがままになっている。
ついてけない。そう思っていた。

「う、……ん、ん、っ…は…」

2コ目まで外れていたボタンだが、いよいよ3コ目が外された。
自然な動作で、肌を露にさせていく。
どこまでも自然で、ぎこちなさがなく、胸から心臓が飛び出てしまいそうになる自分が、
情けなくて悲しい。

(かわいくない…!!)

楽しそうにツナの肌に口付けていくが、まだ足りないのか、その内、痕を付け始めた。
その位置につけたら、ボタンを全部閉めなければいけなくなってしまう。
ランボ!と呼んでも、聞かない。全く、言う事を聞かない。
その時、天井から音が降ってきた。
召集だ。もう、そんな時間だったか。
話し合いの時間を確かめるべく、時計を見ようとしても、ランボが邪魔で見えない。

「ランボ、もう離れて!」
「いやです」
「言うこと、聞いて」
「せめてあと、10コ」

せめてって、せめてでそれかと、ツナはマズそうに歯を見せた。
下唇を噛むと、ランボが柔らかなそれに触れてきた。細く長い、格別美しい指に触れられて、
ツナはうっすらと唇を開ける。首を横に振って軽く睨むが、ランボは柔らかく微笑むだけであった。
ランボは素直な時は素直だが、強情な時は、とことん強情だった。

「もー!行くから、ダメ!」

ツナが叫んだ時、ガゴンと、重厚な扉が開いた。
荒々しく扉を開け放ったのは、リボーンだった。





NEXT→
小説へ戻る