「遅れるぞ、ツナ」 そう言ったリボーンの眼光は、ツナが遅れる元凶となった、ランボを貫いていた。 面白くなさそうに眉を顰めると、「とっととそのアホ牛をどけろ」と、静かに言った。 酷い言葉も平気で使うのは、あの頃から変わっていないが、外見は驚異的に変わった。 どうしてこんなに、二人して変化を遂げたのだろうと、ツナは今でも不思議に思う。 リボーンもランボも、昔のオチビ時代の面影なんて、ほぼ皆無だ。 身長も、あっという間にツナを追い越した。 自分が成長しなさすぎなのだろうか。 「い、行ってくるから。ランボ。今日は他の子と遊んでて」 それがまずかったのか、リボーンが来たのがまずかったのか。 ランボはメソメソとしながら、のっそりと、部屋を出て行ってしまった。。 ポカンとしているツナに、リボーンは何事も無かったかのように「行くぞ」と促した。 話し合い終了の後、部屋に戻ってみたが、やはりランボは居なかった。 ボスンとベッドに身を沈めると、ランボの香水の匂いが微かに残っていた。 いつも、ふらりとやってきては、ふらりと姿を消す。 どこまでも振り回してくれる。 (どこ、行っちゃったんだろ…) そういえばさっき、「他の子と遊んでて」と言ったのを思い出した。 ランボはきっと、ほかの女性と遊んでいるのだろう。 言わなきゃ良かった、なんて、今更後悔しても遅い。 盛大な溜め息を吐くと、ベッドから静かに降りた。 気分転換に、と、屋敷の外に出る。 すると、扉を出た、すぐ横に、くしゃりとした頭の、つむじが見えた。 「…ランボ、なにやってんの?」 ムスリとしたまま、膝を抱えて動こうとしない。拗ねているんだろうか。 細身のパンツの膝小僧に、鼻を擦り付けると、グズリ、と音がした。 「泣いてたんです」 「なんで?転んだの?」 「…いくら俺でも、それくらいで泣きません」 それもそうだ、と思った。 ランボの隣に腰掛けると、固いコンクリが当たった。 「他の娘のとこ、行かなかったの?」 「行きません…なんでそんな事、言うんですか…」 「…え?だって…あ、わかった。リボーンが来たから?昔から、リボーンをライバル視してたけど、得意じゃなかったもんな」 リボーンの事。と、続けた。 小さい頃から容赦ないあの性格に、向かっていったランボは結構立派だと思う。 しかしやはり、恐怖は残っているようだった。 今でもリボーンは全てを凍らすような眼差しでランボを見る。 しかし今でも、怯えて逃げたりはしないところは、昔から変わっていない。 「それもありますけど…。10代目、リボーンの言う事は聞くし…」 「そりゃ、まあ…」 「10代目には他の娘のとこに行けって、追い出されるし」 行くとこ、ないです。 言うと俯いて、完璧に顔を、膝に埋めてしまった。 ツナは、なんなんだ、と思った。 こっちだって、言いたくて言った訳ではない。 ランボが、いわゆる、タラシだと分かった時、悲しかった。どうしようもなく。 だが、ランボはそういう性格なのだと、そう言い聞かせ、黙認してきた。煩くしたことなど、なかった。 他の娘と遊びたいなら、好きなだけ遊べばいい。 その代わり、ちゃんと自分の事も愛してくれれば、それでいい。 そう、必死に、言い聞かせて、色々な感情を押し殺してきた。 「行くとこって…だから、此処じゃなくたって」 「10代目は何か勘違いしてるみたいですけど、オレ、他の女と関係した事なんて、ないですよ」 「え?」 「勿論、女性には優しくするし、少し遊びに行ったりはしますけど…付き合う、とか、そんなのじゃない」 恋愛感情はないらしい。ポカンと口を開けて、黙ってしまった。 まさかそんな。 でも、確かに、ツナは現場を押さえたことなどない。 だが、ランボはツナに誤解させるような事ばかり言ってきたので、ツナが勘違いするのも、仕方ない事だった。 「愛してるの一言も言ってくれない10代目の方が、疑いたくなる」 「なかった…っけ」 「ないですよ…」 折角起こした頭を、また俯かせ、拗ねた顔で言った。 愛してると、言った事がなかった、だろうか。特に意識していなかったのだが。 そう言われてみれば、ないかもしれない、と思った。 「言ってくれないんですか?」 真っ直ぐな眼差しで、見つめられる。 一息吐くと、ツナもランボを見つめ返す。 「好きだよ」 「愛してる、は?」 「…………」 ツナだって、ツナなりに、苦しんできたのだ。 ここで、素直に愛してる、と言ってしまうのは悔しいような気がした。 無言の後、もう1度「好きだよ」と言うと、ランボは不服そうな顔を見せた。 「…他の子のところ、行っちゃってもいいんですか?」 「…ランボが行きたいんなら、仕方ないよね。その子に可愛がってもらって。オレはリボーンに可愛がってもらうから」 「すいませんでした」 よっこらせ、と立ち上がるツナに、ランボは即行で、そんな気ありません、と謝った。 口元を緩めると、ツナはランボを見下ろす。 また、鼻を埋めて、うっすら涙しているランボに、笑みを浮かべた。 「泣き虫は変わらないね、ランボ」 つむじに唇を落とすと、すぐさま腕を引っ張られ、それは甘い口付けに変わった。 |