『おチビさん』
最近やたらと、纏わりついて離れない。
あの、声ー。
そう、最初はエンヴィーの方から。
エドの前に姿を現すことが多かった。
『おチビさん』
頭の中から抜けない、その声。
頭の中で繰り返される声とは反対に、生の声は聞けなくなった。
いつからか、姿を見せなくなったのだ。
あんなに、纏わりついてきたのに。
「兄さん、大丈夫?」
俯いたまま、黙々と歩いているエドを心配して、アルが声をかける。
それにハっとして、ようやくエドは我に返った。
「あ、ああ…。買い物、そんなに多くないから、部屋で待ってても良かったんだぞ」
買い物に行くというエドに、アルは途中から追ってきたのだ。
「うん…。でも、またいつ現れるのか分からないし…」
アルの声のトーンが、少し暗くなった。
エンヴィーの事を言っているのだというのが、すぐに分かった。
最近現れないと言っても、以前は度々現れていたのだ。
いつ現れても、おかしくはない。
「…アイツ、何なんだろうな。俺達の前に姿を出しても、特に攻撃する様子もなかったし…」
何が目的なのか、分からない。
そんな風にエドが口にすると、アルは首を傾げた。
「兄さん、会いたいの?」
「ば…っ!はぁ!?」
何か今、おかしな事を言われた。
思いっきり顔を歪ませると、アルは更に話を続けた。
「あの人が来なくなってから、兄さん…元気ない気がして」
「な…!誰が!あんな危険な奴、来ない方がいいに決まってんだろ!」
まさか弟に、そんな風に見られていたなんて。
正直、恥ずかしい。
否定しなければ。
凄い勢いで抗議すると、パキ、とアルの方から音が聞こえた。
「酷いね、おチビさん」
「…え…?」
『おチビさん』
頭の中で繰り返される、声。
でもこれは、頭の中なんかではない。
これは、現実。
パキン、パキン。
音が次々と鳴っていき、それと共にアルの姿から、エンヴィーの姿に変わる。
「あー肩こった。おチビさんは素直になってくれないし」
「お、おま…っおまえ!」
「久しぶりだね、おチビさん」
軽く顎を掴まれると、エンヴィーの唇の方に持っていかれる。
ぎゅっと目を瞑った頃にはもう、既に。
「んん…っ」
優しいキスなどではない。
まるでエドを、食い尽くすと言わんばかりの、そんなキスだった。
こんなの、された事がない。
今まで自分の前に現れた時だって、ほんの少し触れる事はあっても、こんなのは無かった。
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