「…っな」
唇を離すと、ペロリと舐められた。
更にエドは顔を赤くし、次の瞬間にはゴシゴシと口を擦った。
「うわ、酷い」
「どっちがだ!」
クソ、とまだ口を擦っているエドの手首を、エンヴィーは掴み取る。
この細い肉体からは考えられない、強靭な力。
エドは口元をゴクリと鳴らす。
「こういうのもいいよね」
「…はぁ?」
そのままエドの手に唇を寄せると、エドは視線をずらす。
人に触れる時は、殴る時か、殺す時。
それ以外は、触れたりしただろうか。
触れたとしても、もうずっと昔の事なので思い出せない。
エドを除いては。
良いものだと思った。エドに触れた時。
こういう風に、触れるのも。
「…アルは宿にいるんだろうな」
アルに変化してエドを追ってきたエンヴィーが、本物のアルに何かをした可能性は高かった。
エドの瞳は鋭いものに変わる。
それを見て、エンヴィーは面白くなさそうに眉を顰める。
「何もしてないって。・・・あーあ。ほんっとにおチビさんは弟が好きだよね」
ボリボリと髪を掻きながら、プイとエドに背を向ける。
本当に、面白くない。
エドは弟に関して、異常な程に愛を注ぐ。
その様を見ているのは、非常に面白くなかった。
姿を見せないのは、それが原因だったが、流石にそれを言うのはどうかと思った。
「まぁいいや。俺は弟以上の事、すればいいわけだし」
は?と眉間に皺を寄せた瞬間、再びエンヴィーの顔が近くなった。
また、奪われる。
そう思ったが、手が、足が、抵抗しようとしない。
何故・・・。
「…ん…っふ…っ」
絡ませられる舌と、痛い程に掴まれている後頭部。
ぎゅっと目を瞑り、体を固まらせていると、長い時間がようやく終わった。
「…抵抗しないね」
ニヤっと口元を上げながら、満足気にエドを見る。
エドは顔を真っ赤にしながら、口をパクつかせている。
「…っお、驚いただけだ!」
今度は唇を拭かせないように、手首を捕まえる。
エドの顔の火照りは中々おさまる気配がない。
<あれ…>
手首を掴まれたまま、エドは振り払わない。
…顔を、赤くしたまま。
本当に。
どうしてこうも、惹かれてしまうのだろう。
「かーわいい、照れてんの?」
「うるせぇな!離せ…っわ!」
掴んだ手首をグイっと引き寄せ、エドとの距離を縮める。
ぐっと、掴む力を強くする。
このまま、腕をへし折ってしまおうか。
機械鎧も、粉々にして。
足も、ただ付いているだけの飾りにしてしまおうか。
ー動けなく、してしまおうか。
<…なんて、ね…>
それでも、自然と力が篭る。
何処かに、連れて行ってしまいたい。
背後に気配がしたのに気づき、振り返ると、数メートル先に、弟のアルフォンスが居た。
エドもアルの方を見ると、「来るな」という口の動きをした。
ゆっくり瞬きをすると、パっとエドの手を離した。
いつものように、掴み所の無い笑みを浮かべる。
「またね、おチビさん」
警戒の瞳で睨むエドに言うと、その場を去った。
いつも連れていかれる。
エドに。心を。
返しては貰えない。
いつも僕を連れていく君を
次は僕が、
君を、連れていく。
|