**キス**
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『キスして』
こんな夢を見たボクは、おかしいんだろうか。
******・・
「塔矢君!」
手を振りながら、由美さんがこっちへ駆け寄ってくる。
ボクが見た夢で、問題発言をした張本人。
そしていつもボクを悩ますー
由美さん。
お母さんの友達の娘さんとかで、結構家に遊びに来る。
お母さんは彼女の事を気に入っていたから、彼女が家に来ると、とても喜んでいた。
「ご飯、食べに行かない?」
いつもこうだ。
いつも。
家に来れば、由美さんの方がボクを誘ってくれる。
ボクからは、誘わない。
それが嬉しい。
まるで
想われているようで。
由美さんがボクに想いを寄せていてくれたら。
もしそうだったら、どんなに…
『キス して』
いきなり夢の中の由美さんが出てきてしまった。
顔を真っ赤にしていると、由美さんが不振そうに見てくる。
「…顔赤い。熱でもあるんじゃないの?」
ちょっと
かしてみ。
そう言うと、由美さんはボクの頬に、いとも簡単に触れてくる。
ボクは触りたくとも、由美さんの肌になど絶対触れられないのに。
「…熱はない、かな」
当たり前だ。
ただ貴方を思い出して、こんな事になっているだけだ。
なんて言ったらどんなに不気味がられるだろう。
拒絶されるような事だけは絶対に言えない。
でも今に、我慢できなくなる日が来たら。
そうしたら由美さんは、ボクの側から、きっと離れていってしまう。
そんなの、堪えられそうもない。
「何食べる?」
ボクがこんな事考えてるなんて思いもしないだろう由美さんは、無邪気にメニューを見て迷っている。
伏せている目が、やけに色っぽい。
ドクン、ドクンとうるさい心臓は、どうも止まりそうにない。
でも顔には出さない。
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