「塔矢君、決まった?」


唇を、動かさないで欲しい。
心を、振り回さないで欲しい。
夢の中でまで、困らせないで欲しい。



ボクは、おかしい。





今日もまた、あの夢。
唇があと数センチで触れ合う、というところで今日は目が覚めた。

あと少しで、と、悔やんでしまう自分が怖い。




さんに会っては、気持ちを抑えるのに必死になって。
そんな事ばかりをしていた時。

思いがけない誘いがきた。








「キス、してみない?」








耳を疑った。
これはあの夢だろうか?
夢だ。
現実の進藤が、こんな事言うはずがない。
だけど感覚は確かに現実のもので、ボクは頭が混乱した。


が、次の瞬間。
気づいたらさんに唇を合わせていた。


「ん…っ」



鼻掛かった甘い声。
夢の中と同じ…いや、それ以上だった。


「ぅ・・・っ」


より深く唇を重ねていく。
さんから誘ってきた、という事で強気になっていた。
もっと奪ってみたい。


角度を変えて、再び舌を差し込もうとすると、胸を突き返された。
さんは息を切らしながら、唇から漏れる唾液を拭っている。


「…じょ、冗談で言ったのに…っ」


…冗談?


真っ赤な顔でボクを睨むと、さんはバタバタと走って行ってしまった。






ドクン、と胸が嫌な音を立てる。






何をしてしまったんだろう。



夢なら目が覚めたら、また普段とおりに出来るのに。





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