その日の夢にも、さんは現れた。
キスよりもっと進んだ、そういう夢だった。
次の日。
僕の家にさんは来ていた。
意外だ。
絶対避けられると思っていたのに。
「少し、話そう?」
そう言うと、碁会所から出て行く。
何の話だろう。
大方、昨日の僕の行為を非難する言葉が彼女の口から出てくるのだろうと、僕は覚悟を決めていた。
「…ごめんね、昨日」
「…は?」
だけど予想は外れて、何故だかさんに謝られてしまった。
僕が謝る立場じゃなかったのか?
「嘘。冗談って」
「…キスしようって言ったのが?」
「…ん。その…塔矢君と…その、キ、キス?してるっぽい夢見ちゃって…」
…ボクと同じだ。
こんな事があるんだろうか。
相当恥ずかしいらしい進藤は、耳まで真っ赤にして俯きながら喋る。
「結構頻繁に見てたから…私、塔矢君とキス、したいのかなって。…本当にしてみたら、わかるかなって…そう思って」
あんな事を言ったわけか。
…どうだったんだろう。
僕とキスがしたいって、今は思ってるんだろうか。
次の言葉を、緊張しながら待つ。
「…嫌じゃなかった。塔矢君とキス、して」
「え…?」
「でも、急に恥ずかしくなって…頭、混乱しちゃって…。つい、冗談だって…言っちゃった…。ごめんね」
さんは今にも泣きそうだった。
抱きしめたい。
抱きしめても、いいんだろうか。
「…塔矢君?」
さんをぎゅうっと自分の胸に閉じ込めると、不思議そうな声が聞こえた。
僕がキミと同じ感情を持っているなんて、思ってもみないんだろう。
「…僕も同じだから」
「…な、何言って…」
「本当だよ」
言葉で言っても、さんはなかなか信じてくれない。
そういう人だ。
そっとキスすると、ポカンとした顔をしていた。
そしてその後
「…なんだ」
と言って照れくさそうに笑った。
「本当に?」
夢の話をさんにしたら、とても驚いていた。
僕もさんから聞いたときは驚いた。
何と夢の中の風景まで、一緒だったのだ。
僕達は、夢の中でも会っていたんだろうか。
と、いうことは。
「昨日は?」
「ん?」
「何か夢見た?」
昨日。
さんとキス以上の行為をしている夢を見てしまった。
つまり、もしかしたらー
期待に胸を膨らませながら、ボソっと耳もとでその事を話すと、さんは頬を赤くして怒り出した。
「み、見てないよ!そんな夢!」
更にエロイ、と最後に付け足された。
「し、知らない、もう!」
怒って前を歩き出す。
部屋から出ようとするさんの腕を取り、軽くキスすると、彼女は少し照れたように目を伏せる。
帰り際。
今度はさんから軽く、キスされた。
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