「え?3人で遊ぶんじゃないの?」 一大イベントであるクリスマスの直前に、ツナはこんな言葉を二人に投げつけた。 恋 人 は サ ン タ ク ロ ー ス 街の煌びやかなイルミネーションに、ツリー。 ウィンドウには、クリスマスを思わせる飾りつけが施され、見る者をうっとりとさせている。 恋人達の一大イベントであるクリスマスは、彼等にとっても例外ではなかった。 山本武に、獄寺隼人。 ツナとは恋人同士ではないものの、あと一歩で我が物に、のところまではきていた。 というか、二人は勝手にそう思っていた。優しいツナの性格は、二人をその気にさせるには十分だった。 当然二人は、各々、クリスマスの誘いをツナに申し出た訳である。 ツナの答えは、OKだった。 それを聞いた二人は、心底嬉しかった。 やっとこれで、結ばれて。二人きりのクリスマス。 今までとは違い、その日はきっと、少し甘くなるに違いない。 しかしそれは、大きな勘違いであった。 ツナは、クリスマスを3人で過ごすものと思っていた。 結局3人で過ごすことになったクリスマス。 街をぶらつき、最終的にはツナの家に集まり、飲んで食って。 そうしてお別れ。 楽しくないわけじゃない。 しかし、別なものを期待していただけに、二人には随分、随分物足りない日になった。 「洗っちゃうから、お皿、下に持ってきてねー」 下から母の声が聞こえ、ツナは部屋を片付け始めた。 散乱した部屋の中、リボーンはコーヒーを飲みながらくつろいでいる。 ツナはせっせと、部屋のものを片していった。 やっと綺麗になった部屋を満足そうに見渡すと、ポスンとベッドに横になる。 (楽しかったなー) 二人が友達で、良かったと思う。本当に。 毎日がこんなに楽しくなったのも、あの二人のおかげだ。 そんな事を思いながら、ゴロンとしていると、急に眠気が襲ってきた。 1日、はしゃいでいたから、仕方ない。 こうしてゴロゴロしているのに、リボーンが何も口を挟まないなんて、珍しいー。 そう思いつつも、ドロンと押し寄せてくる睡魔と、落ちてくる瞼に、抵抗もせずに、眠りについた。 「起きろ」 「ーん〜…?…いっいだだだだだっ」 まだまだ寝たり無い。 そう思っていたが、頬に急激な痛みが走った。リボーンに、頬を抓られていた。 跳ね起き、ヒリヒリとする頬を撫でる。 ああ、これは少し赤くなっているんじゃないだろうか…。などと思っていたが、すぐに別の問題に頭がいっぱいになった。 「なにすん…って、なんだよこれー!!!」 目の前に広がった、自分の衣服。 全身、真っ赤だった。その赤に、くっきりと目が覚める。目覚ましには、少し強烈すぎる。 明るい赤の中に、所々、白が混ざっている。それに、フワフワとした、白いファー。 つまり、今日に相応しいこの格好は。 「サンタクロースだ」 「見ればわかるよ!なんでオレがこれ着てんの!?」 「ツナがサンタクロースだからな」 意味が分からなかった。 自分は沢田綱吉という人間であって、サンタクロースの職には就いていない。 大体リボーンは、マフィアのボスにならせる為に来たのではなかったか。 サンタクロースにならせる為ではないはずだ。 「ツナ、お前、山本と獄寺にプレゼント、貰っただろう?」 「え?ああ、うん」 山本からは欲しがっていた新作のゲーム。獄寺からは何故か花束だった。 驚いたが、「貴方に捧げます」、と、真剣な眼差しと、少し赤くなった顔で渡された花束を、ツナは快く受け取った。 ーまさか、二人からクリスマスプレゼントを貰えるとは思ってもみなかった。 何も用意できていないツナは、ひたすら謝ることしかできなかった。 来月、何かプレゼントする、というツナに二人は、気にしないで欲しいと告げた。 だが、気にしないわけにはいかない。 「ツナはあいつらに、何もやってないな」 「…うん。今度、何かプレゼントするよ」 「今日っつー事が大事だ」 クリスマスだからな、と付け加えたリボーンは、ツナに二つの子袋を渡した。 サンタが持っているような、あの大きい白い袋を、小さく二つにしたような感じだった。 やけに軽い二つの袋の中をチラっと覗くと、そこには箱のような物が見えた。 「その中にプレゼントが入ってる。今からあいつらの家に行くぞ」 「え!?ええ!?い、今から!?もう遅い…」 「部下を大事にしろ」 「ーリボーン……」 リボーンから、こんな心遣いをして貰えるとは。彼が自腹を切ってくれたのだ。 いつもは、厳しい事しかしないリボーンが。やはりクリスマスだからだろうか。 いつも変わらぬ表情も、今日はどことなく優しい気がする。 じーん、と心に染みたツナは、この格好で、二人の家に行く覚悟を決めた。 後から自分のお金で改めて、二人に贈り物をするとしても、今日はリボーンの厚意に甘えよう、と。 こくり、と頷くと、リボーンから、サンタ特有の帽子が渡された。 「…これも被るの…」 「当然だ」 心を決めた矢先から、不安になるツナだった。 夜遅いとはいえ、この格好で外を出歩くのは、相当恥ずかしかった。 やっとの思いで、獄寺の家に辿りつくが、勿論、正面から入るわけには行かない。 木によじ登り、窓に手をかけると、すんなりと開いた。 (ぶ、無用心だよ、獄寺君…) 獄寺の部屋を、月明かりだけが照らす。 窓から侵入しようとするが、暗くて降りるのに苦戦する。 やっとの思いで、床に足を着ける事に成功した。リボーンはいつの間にか、獄寺の側に居る。 布団から足が飛び出し、見事な寝相で獄寺は眠っていた。 「リボーン、これ、どっちの袋が獄寺君?」 「どっちでもいい」 「?ああ、どっちも同じものって事か…」 袋に手を突っ込み、箱を取り出した。 しかし、やけに軽い。その上、薄っすらと見える箱は、何のラッピングもなされていない。 ただの、白い箱だ。 |