「…リボーン、中身って何なの?」
「何も入ってないぞ」
「…な…、はー!?」


獄寺のベッドの横に立ち、枕元に箱を置こうとしていたツナは、再び、箱を取り上げた。
つまりこれは、唯の空箱。獄寺は金持ちだ。さぞかし目が肥えていると思う。
普通のプレゼントでも気に入って貰えるか分からないというのに、唯の空箱なんて気に入って貰えるはずがない。

(リボーンが何を考えているのか分からない…)

意味を聞こうとしたツナだが、暗闇から、のそりと、何かが動いたのが分かり、瞬時に目を見開いた。
ベッドから、何かが起き上がった。何か、というか、ツナにはハッキリと分かっていた。
闇の中でのっそりと動いた人影ー。今此処に存在するのは、リボーンと自分と、獄寺、3人だけだ。

「……………」
「ご、ご、くでらくん…っ」

起きてしまった獄寺だが、何も言葉を出さない。ただ、ぼうっとツナの方を見ているようだった。
ツナも何と言い訳すればいいのか分からずに、ごくり、と喉を鳴らしただけで、黙っていた。
何か言ってくれればいい。「何してるんですか?」とか、怪しまれた方が、まだ良いというものだ。
こちらから口火を切ろうとした瞬間、獄寺の手が伸びた。

「10代目ー…」

グラリと体制を崩すと、獄寺の居る場所に倒される。
ツナの肩に顔を埋めると、そこからチュ、と音がした。
柔らかなものが唇だと理解した瞬間、ツナは目を見開いた。
獄寺君、獄寺君、何やってるの!
呼びかけても、10代目、10代目、としか返事が返ってこない。

「わ!獄寺君起きてって!!」

獄寺の胸を必死に押し返そうとするが、やがてその手首を掴まれ、完全に捕まってしまった。
瞳は暗くて見えないが、きっとぼんやりとした目をしているのだろう。

(完璧に寝ぼけてるー!!)

リボーンに助けを求めるが、リボーンは知らん振りを決め込んだ。
彼は当てにできない、という事を理解したツナは、獄寺の下でもがき、手にも力を入れた。
しかし、勿論、獄寺の力に敵うわけもなく、モガモガとするだけになってしまう。

「リボーン!」

名を呼ぶと、いつの間にか、リボーンはベッドの上まで上がってきていた。
ゴっ!と鈍い音がしたかと思うと、獄寺の動きが止まり、ツナの上に倒れこんだ。

「次、行くぞ」
「…う、うん…」

部下を大切にしろ、と言った、あの時のリボーンが、ツナの頭の中で小さくなっていった。
いや、勿論、いざという時は容赦がない事くらい、ツナには分かっていたのだが。






山本の家に到着し、また屋根を上り、山本の部屋の窓の前に立つ。
が、彼の部屋は薄っすらと明るく、その上、声が聞こえてきていた。
どうやら、これはテレビのようだった。


「どうすんだよ、リボーン……」
「そのまま入れ」
「え!?」

ドン!!と窓を勢い良くリボーンが叩くと、すかさず山本が窓を開けた。
ツナは咄嗟に、「ひい!」と壁にピタリと張り付いて隠れたが、リボーンは逃げも隠れもしなかった。
山本の前に、こじんまりとした姿を見せると、「チャオっす」と、いつものように挨拶をする。

「小僧、何してんだ?家出か?」

自分の家の屋根に立っている赤ん坊を発見しながらも、怪しむ事もせずに笑いながら、「まあ、あがれ」と言ってのける。
さすが山本、と言ったトコロだ。少々のことは動じない。−というか少々のことでなくても、動じない男だ。


「ツナもいるぞ」
「ー…ツナ?いねーぜ?」
「いる」

ぐいっと、壁に張り付いていたツナを、山本の前に引っ張り出した。
グラリ、と、屋根から滑り落ちそうになったツナを、山本が支える。

「−…や、山本…メリー、クリスマス…」
「…おもしれーのな、ツナって」

引きつった笑いを浮かべるツナに、山本は嬉しそうに微笑んだ。
喋る度に、白い息が現れる。
ぐいっとツナを引っ張ると、そのまま自分の部屋に入れた。
テレビがガヤガヤと言っている部屋は、とても暖かい。
ツナが手を擦り合わせていると、山本の手が、重なった。

「サンタも大変だなー」
「…ごめん、夜遅いのに」
「なんで?嬉しいぜ、オレは」

ツナが、来てくれて。
そう言った山本の顔は、本当に嬉しそうで。
ツナはジィンときてしまった。
憧れの彼が友達になってくれたばかりか、いつも山本は、感激してしまうような言葉をくれる。
暫く幸せを感じていたツナだったが、プレゼントの事を思い出し、ハっとすると、山本の手を離し、袋に手を入れた。
しかし。

「……空…」

やはり空箱だった。
ツナはガックリと肩を落とした。リボーンはどういうつもりなんだろうか。
チラリと横目でリボーンを見るが、リボーンは何食わぬ顔で、テレビなどを見ている。

「それ、何?」
「あ、いや、その…。なんでもない…」

ふうん?と不思議そうな顔で、ツナを見つめると、また、手を握った。
真剣な顔をしている山本を、かっこいいな、なんて思いながら、ツナは見つめ返していた。

「な、ツナも今日、二人で過ごしたいって思ってくれてたって、−今来てくれた意味って、そう取っていいんだよな?」
「は?」
「物足りないから、今、来てくれたんだろ?」


すげー嬉しい。
そう言って笑う山本は、とてもとても嬉しそうなのだが、ツナには何の事か、さっぱり分からない。
しかし山本が嬉しそうなのだ。この空気を壊したくない。
とりあえず微笑み返しておくと、山本の顔が、接近した。

「ー…ツナ、今日はサンタなんだ?」
「え。いや、これはリボーンに勝手に」
「…オレに、何かくれんの?」

接近している顔が、更に近く。
テレビの明るさだけの、薄暗い部屋。怪しげなムードは出来上がっていた。
ツナが固まっているのをいいことに、山本は完全に、狙っているようだった。
その唇を、合わせようとした、その時。
ドンドンと、扉が大きな音を立てて鳴った。

「武ー?誰か来てるのか?」

山本の、父の声。
暫く黙っていた山本だったが、のそりと立ち上がり、ドアを開けた。

「ツナが来てんだ」
「ああ?何処にいるってんだ」

開かれたドアから、部屋をきょろりと見渡すが、父は不思議な顔をする。
山本も、何故分からないのか、と、部屋を振り返った。
しかし、そこには誰も居ない。
ただ、開かれた窓から、星空が覗き、夜風がカーテンを揺すっている。

「−…ツナ?」

夢でも見てたんじゃねぇか、と笑う父に、山本は首を傾げた。







山本家の周辺で、リボーンに連れ出されたツナが、モガモガとしていた。
縄で縛られ、そのままリボーンによって、山本の部屋を無理矢理、出されたのだ。

「な、なにすんだよ!!」
「ママンが心配する。帰るぞ」

巻きつく縄を、シュルリと解きながら、リボーンは淡々と答える。
トボトボと歩くツナには、一体何の為に二人の家に行ったのか、分からなかった。
箱も何も入っていなかったのだから、当然プレゼントは何もあげられなかった。

(はー…。二人にはちゃんと貰ったのに…)

来月になったら必ず、と心に誓い、足を進めた。

「ー…リボーン、なんで空箱なんか…オレ、てっきり、プレゼントが入ってるのかと」

というか、リボーンが最初に言ったのだ。この中に、プレゼントが入っている、と。
実際は何も入っていなかったのだが。

「これで良いんだぞ」
「ど、どこがー…」
「二人が欲しかったのは、ツナだ」
「…はあ?」

ツナ。
一応自分もそう呼ばれているが、二人の欲しいものが自分…では意味が分からない。
ツナ缶だとか、ツナおにぎり、だとか、「ツナ」が二人の好物なんだろうか。
しかし、箱にはツナなんて入っていなかった。

(なんなんだろう…)


リボーンに答えを聞いても、益々わからなくなるツナであった。




翌日。
ツナの許に、二人から同じような電話が掛かってきた。

『昨日、10代目の夢見たんスよー』と、獄寺。
『昨日、ツナが夢に出てきたぜ』と、山本。

二人共、弾んだ声で、報告してきた。
夢ではない、とは言いにくいツナは、真実は胸の中に閉まっておこう、と思った。
そして二言目にも、二人は同じ事柄を話した。

『10代目、ちょっと気が早いっスけど、来年のクリスマスは』
『ツナ、予約しときたいんだけど、来年のクリスマスは』


オレと、二人で。



そう言った二人が、あまりにも同じ事を言うものだから、ツナは少し、吹きだしてしまった。
しかし、二人共、真剣そのものだった。
今年のような失敗はしたくない彼等は、今度は二人きりで、とも付け足した。
もう3人で過ごす、なんという事態は御免だ。
二人共、来年こそ、ツナと2人きりで過ごしたいのだ。


そうしてツナはどちらを選んだのかというとー…、やはり、3人で過ごすのを、選んだのだった。







獄寺がへたれすぎたのではないかと汗。
クリスマス小説、読んでくださってありがとうございました><vv


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