「最近大佐、サボりませんね」
煙草を銜えながら、ハボックがホークアイに言うと、彼女はくすりと笑った。
サボらない理由。
「もうすぐクリスマスだから、じゃないかしら」
それを聞いて、ハボックは「ああ」と頷いた。
デートか、と思った。
だが、クリスマスにデートとなると…
「やっぱり本命、いるんスか?」
その問いに、軽く首を傾げると、ホークアイはツカツカと歩き出した。
いつもこんな感じで、ロイの本命は明らかにはならないが、ハボックは「本命がいる」ことを確信していた。
いつか分かる、まだ突き詰めたりはしないでおこうと、そう思った。
***
セントラル行きの汽車の中で、エドはパンを頬張っていた。
モグモグと口を動かしていると、アルが思い出したように口を開く。
「兄さん、この前ピナコばっちゃんに電話したんだけどね。クリスマス、ウィンリィと一緒にセントラルに出てくるって。24と25に来るって言ってたから。」
案内してあげようね、と嬉しそうに言うアルをよそに、エドはマズイと思っていた。
24日はロイと約束がある。
1日は空けられないかもしれないが、少なくとも午後からは絶対に、と、あの多忙なロイが約束してくれたのだ。
「…24は大佐と用事あるから、アル案内してやってくれ。25は俺も一緒に行くから」
悪い、と謝ると、アルは首を傾げた。
何で大佐と?と思っているのが分かる。
「ちょ、ちょっと聞きたい事があってさ」
「…うん、わかった」
あまり問い詰められなくて良かった、と胸を撫で下ろす。
そんなエドを見て、アルは「25日は絶対だよ」と念を押した。
司令部に着くと、一番にハボックに絡まれた。
「今月入って初めて来るな、大将」
ニヤっと笑うと、早速、ロイの噂を流し始めた。
「大佐に用事だろ?いま、大佐大変だぞ」
「なんで?」
「本命ちゃん。クリスマスに約束してるらしくってさ。仕事、凄い勢いで片付けてる」
「・・・ふーん」
どんな娘だろうなーと楽しそうに笑うハボックに、エドは俯いて返事をした。
自分、なのだろうかと。
そう思うと、やっぱり嬉しかった。
「でもまぁ、今月はお嬢様方とのデートが多かったけどな。…なんて、本命の娘が知ったら妬くだろうな」
「え?」
詳しく聞こうとした所で、ハボックは背後にいる部下から呼ばれ、行ってしまった。
・・・何だったんだろう、今の言葉は。
エドの胸に、嫌な霧がかかった。
「鋼の」
この声は。
ギクっと肩を上げ、振り返ると、噂の張本人、ロイがいた。
さっきのハボックの言葉の所為か、上手く表情を作れない。
引きつったような笑顔で片手を上げると、ロイが遠慮がちに言った。
「すまない。これから会議でね。書庫か私の部屋に居てくれないか」
「ああ、うん・・・」
歩くロイの後姿が、何だか痛い。
ロイの部屋にもあまり行きたい気分でなかったし、アルの居る書庫にでも行こうかと思ったが、それも何だか逃げているみたいで嫌だった。
結局、ロイの部屋に行く事にした。
部屋の扉を開けると、無用心にも窓が開いていた。
デスクにある本などが、全てバラバラと開いてしまっている。
「あーあ。めちゃくちゃじゃねぇか…」
窓を閉めて、本等を直そうと思ってデスクに近づいた。
すると、本と一緒になって、手帳らしきものも置いてあった。
「…これ…」
ロイの手帳だ。
見ろと言わんばかりに、ちょうど今月のところで開いている。
悪いと思いつつも、開いてあるとどうしても、目がそっちにいってしまう。
暫く目線を逸らしていたが、我慢できずに、とうとうしっかり見てしまった。
見た瞬間、ピキっときた。
目が回る。
この、毎日のように書かれている待ち合わせの時間と
女性の名前。
「あんの女タラシ…!」
一発、殴ってやりたいと思った。
きっとクリスマスだって、午前中は女性と、午後からは自分、夜はまた女性と、という形になるのでは。
そんな考えが頭を過ぎった。
考えれば考えるほど、頭にきて、どうしようもない。
もうロイの部屋に居るのは我慢できなくなって、勢いよく部屋を出た。
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